第26話 春川日向は隣にいたい。
「ねえ爽馬、どっちが似合ってる!?」
「いや……遊ぶって言ってたよな?」
久々の日向と2人で遊ぶ休日。俺はてっきりゲーセンに行ったり、カラオケに行ったり、あるいは映画を見に行ったりするものだと思っていたのだが……どうして俺は、日向の服選びを手伝わされているのだろうか。
「遊んでるよ、爽馬で! こういうのやってみたかったんだよね、デートの定番でしょ?」
「俺で遊ぶな。あと遊びをデートに格上げするな」
「女の子と2人で出かけるのはデートって言うんだよ?」
「それは……100歩譲って認めるから俺で遊ばないでくれ」
日向とデート、と考えると何故か背筋がゾワッとするが便宜上は間違えていないからギリ許そう。だけど答えづらい質問だと分かった上で定番の質問を投げかけてくるあたり、本当にいい性格をしている。
「で、どっちがいい? 爽馬に選んでもらった服なら普段着にしちゃうかもしれないな〜」
「お前……絶対分かってて言ってるだろ」
「ほらほら、早く選んでよ!」
そうして駄々をこねる日向の服を渋々選び、続いてやってきたのは以前神凪さんがナンパされていたところにあるゲームセンター。ようやく普通に遊ぶ気に……
「ねえ爽馬、プリクラ撮ろうよ!」
「何でそうなるんだよ!」
何となく察してはいたけどプリクラだけは絶対に嫌だ。神凪さんと撮った時に俺の写りが悪いのは知っているし……もしあんなぎこちない顔の写真を残されようものなら日向にバカにされるに決まっている。
「お願いだって! ボク、初めてこっちの姿でプリクラとか撮るんだよ! 爽馬、一緒に撮ろうよー!!」
「何でだよ他のやつ誘えよ! 雪月とか!」
「やだよ! 雪月ちゃんとプリクラ撮りに行ったら2時間は帰して貰えないし!」
雪月はプリクラガチ勢だったのか……だとしても、わざわざ俺をプリクラに誘うことないだろうに。第一、俺だってそんなに慣れてるわけじゃないし。
「とにかく、別の所行くぞ! プリクラは……その、また今度だ!」
「今度っていつなのさ!」
「うーん……明日とか?」
「明日っていつの明日なの!?」
「少なくとも今ではないな」
今度から日向と遊びに行く時はプリクラの近くに行かないようにしないといけないな……なんて考えながら、俺はさっさとその場所から去っていく。隣に歩いている日向はこちらを見ながら頬を膨らませて抗議するが、何も見えていないことにしておいた。
「……あっ」
だが、ふと日向が別の方向を凝視していることに気づいて俺も思わずそちらの方を見てしまう。その視線の先にあったのはクレーンゲーム……神凪さんが前に言っていた、ミツメアイのオリジナルぬいぐるみが入っていた。
「……あれ、欲しいのか?」
「うん……ミツメアイちゃんは、結構前から見てるから。なんか配信見てると元気もらえるんだよね」
「そ、そうなのか……」
日向にそのつもりはないのだろうが、自分が言った言葉を自分に返されたような気がして少し照れくさいような気分になる。
「じゃあ、やってみるか? 俺も持ってみたいし」
「いいの!? やろ、やろっ!」
よほど嬉しかったのだろうか、日向は10秒前までの不機嫌そうな態度が嘘のように元気になり急いでその台へと向かっていった。今日はずっとそうだけど、子供のようにはしゃいでいるあたり楽しんでくれているのは確かだろう。
「もうちょっと右? ここで……あっ、落ちた! アーム弱すぎない!?」
「クレーンゲームってそういうもんだよ」
しかし500円を投入しても一切取れる気配がない。クレーンゲームって確か連続で取れなければ取れないほど取りやすくなる、って聞いたことあるけど……もしかしたら一度取られて補充されたばかりなのかもしれない。
「……あー、100円玉無くなっちゃった! でも両替してまで使ったらなんか負けた気がするし……ねえ爽馬、なんかいい方法ない!?」
「仕方ないな、諦めよう」
「ドライすぎるよ爽馬!」
クレーンゲームの罠に嵌ってしまったのか、日向はどうしてもこの人形が欲しいようだ。でも俺もできる限り小銭は使いたくないしこれだけのために札を両替するのも癪だ。
「……あっ、そういえば俺の家にあるぞこれ」
「本当!? えっ、本当に!?」
(そういえば試供品で送られてきてたんだった……!)
ちょうど神凪さんと遊びに行く2週間前くらいに、サンプルとしてミツメアイのぬいぐるみが送られてきたのを思い出した。そうだ、商品とコラボする時には大体貰ってるじゃないか……部屋の棚の中に置いてたっけ?
「なあ、今度遊びに来た時にいるか? たまたま何かのキャンペーンで当たったけど使わなくてさ」
「本当に!? じゃあ今度行った時、絶対ね!」
そうして一気に幸せそうな雰囲気を纏い始めた日向は、弾むような歩調で別のところへ歩いていく。そんなにぬいぐるみを喜んでもらえるとは思わなかったけど……
「ぬいぐるみ好きなんだな、日向は」
目の前を歩く背中に向かって、俺は思った通りのことを告げる。だが、しかし……
「……さて、どうだろうね?」
振り返ってそうミステリアスに笑った日向の顔が、しばらく頭から離れなかった。
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「ふぅ、遊んだ遊んだ……今日はありがとね、爽馬。いっぱい付き合ってくれて」
「俺も楽しかったけど……お前、その荷物大丈夫か?」
その後も日向に色々なところを連れ回され、いつのまにか日が沈むくらいの時間になっていた。こんなに全力で遊んだのはいつぶりだろうか……なんて思いつつ、俺は両手に大量の紙袋を持った日向を心配する。
「大丈夫! だってさっきまで爽馬が持っててくれたから、ボクはまだ元気だし!」
「俺の腕はクタクタだけどな」
半ば荷物持ちにされていたような感じも否めないが、今日くらいは別にいいだろう。だって……もう夏休みも終わりだし、こんなに遊べることもしばらくないだろうから。
「爽馬、本当にありがとね。ボク……絶対にこの夏休みは忘れないよ」
「……何だよ急に。恥ずかしい」
改めて満面の笑みを浮かべてそう言ってくる日向の表情が夕日に照らされて、俺は思わず目を見開いてしまう。その瞬間、今日初めて……日向を、見た気がした。
「だって、もう夏休みも終わりだから言っておきたいと思って」
「そっか……そういえばお前、宿題は終わったのか?」
「……あっ」
……こいつ、この表情はやってる時の顔だ。そう気づいた俺はゆっくりと逃げようとする日向を捕まえて、にっこりと顔に笑いを浮かべる。
「なあ、日向……まだ3日あるし、明日からもいっぱい『遊ぼう』な?」
「い、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
それから夏休みが終わるまで、俺と日向は毎日俺の家で残っている宿題をしたのだった。
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