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第12話 星宮爽馬は仮面を被る。

「あの、神凪さん?」

「なにも、聞こえない……」


 白姫さんのストーカーを殴り飛ばし、土日を挟んで週が明けた日の放課後。久々に監視の目がなかったため、神凪さんに話しかけてみたのだが……全く話を聞いてくれなかった。


(予想以上に怒ってるなぁ……)


 まあ当然と言えば当然だろう。神凪さんからしたら急に連絡先を消され、なぜか話そうとしてもずっと避けていた奴がなぜかまた話しかけてきたのだから。


「あれは何というか、事故というか」

「知らない……星宮くん、ずっと話さなかったくせに……」

(め、めんどくせぇ……)


 とは言っても、もうこの問答だけで20分は話を続けている気がする。まさか神凪さんがここまで強情だとは思わなかった。


(……って、なんか見てる?)


 そういえば、さっきからずっと下の方をチラチラと見てるけど何かあるのだろうか? 俺は少し立ち位置を変えて、神凪さんの目線の先が見えやすい場所に移ると……


『【急募】クラスの男子と仲直りする方法』

『>>1 押してダメなら引いてみろって言うだろ? とりあえず無視決め込んどけ」

『>>2 天才』

『>>2 それがいいww』

(更なるグレーゾーンに足を踏み入れていらっしゃる!?)


 確かにYahho知恵袋を使うなとは言ったけど……なんで某掲示板(6ちゃんねる)なんだよ! しかもV○P板使ってるし! きちんと遊ばれてんじゃねえか!!


『>>2 いい感じに話せてます、本当にありがとう』

『>>5 なんでだよw』

『>>5 マジで?』

『>>5 それって、あなたの感想ですよね?』


 これのどこがいい感じなんだよ! こっちは最高に気まずいよ! 会話が一方的すぎて辛いわ!


(嘘は嘘であると見抜ける人でないと掲示板を使うのは難しいんだなぁ……)


 俺はどこかで聞いたその言葉を思い出しながら、拗ねる神凪さんのことを宥めたのだった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「はぁ……ネット、下手なのかな……」

「あんまり落ち込まなくても大丈夫だよ、これから勉強すれば……」

「……このドリア、やっぱりおいしい……!」

「全然落ち込んでないじゃん」


 なんとか神凪さんの誤解を解いた後、俺は神凪さんに誘われて学校近くのサイ○リヤに来ていた。一昨日、白姫さんと2人で来ていたところだ。


「……でさ、神凪さん。何かあったの?」


 美味しそうにドリアを頬張る神凪さんを眺めながら、俺は早速本題に入ることにする。


「あっ……やっぱり、分かる?」

「ただの勘だよ」


 ただでさえ内気な彼女が何もなしにご飯に行こう、なんて不自然すぎる。例えば……


「白姫さんに、何かあったとか」

「……なんで、そこまで?」

「まぁ、色々あったから」


 ビンゴ。今日は監視に来ていなかったし、休みの間に配信がなかったからもしかしてとは思っていたが……やっぱり、まだ一昨日のことが響いて外に出られないのだろうか。


「……実はね、金曜日から、ずっと雪月が部屋から出てこないらしくて……私も話してみたけど、何も聞いてくれないんだ。今日も学校に来てないし……なんか、変なの」

「部屋から? 家の外に、じゃなくて?」

「うん……引きこもってる、らしいの」


 妙だな。不審者が怖いって理由で家から出ない……というのは理解できるが、そもそも部屋に引きこもっているのは何か違和感がある。一歩も動けないほど怖がってる可能性もなくはないが、彼女がそんな性格だとはどうしても思えない。


(何が理由だ? ストーカーじゃないとしたら……ダメだ、全然思い付かない)

「……それで、どうすればいいかなって……相談できるの、星宮くんくらいだし……」

「どうするって言われてもなぁ」


 正直、原因も何も分からない状態で相談されても困るのが現状だ。仮に原因が分かったとして、あの神凪さん狂信者の白姫さんが彼女にさえ塞ぎ込んでいる状態、コンタクトを取ることさえ難しいんじゃ……


(なんかメール来たな……って、これは────!)

「……神凪さん。ちょっと用事できたから帰るよ」

「あっ……うん、分かった。ごめんね、急に……」


 半ば諦め気味にそんなことを考えていると、俺のスマホに1通のメールが届く。LIMEではなくメールということは、仕事の話……そして、その内容は。


「きっと大丈夫だよ、神凪さん」

「えっ……?」

「白姫さん、きっと明日には学校に来るから」

「なんで、分かるの?」

「……ただの勘だよ」


 俺は彼女を元気付けるためにそう告げて、2人分のお金を置いて急いで席を立ち上がる。


『From:姫川りんご  今夜、コラボの件でお話があります。急なことで申し訳ありませんが……』


 ……きっと、これが彼女の真意を知るチャンスになるはずだ。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



『本当にごめんなさい。どうしても外せない用事が出来て……コラボは延期してほしいんです』


 画面の向こうで、姫川りんご……もとい白姫さんが、やけに元気のない声でそう告げる。時刻はまだ夜の8時、単に眠たいからというだけでないことは明らかだし本当に事情があって謝るにしても落ち込みすぎている。


(そんなに話したくない事情が?)


 神凪さんの話から、土曜日以降に外に出ていないのは分かっている。あのストーカー男は逮捕されたとネットニュースになっていたし、SNSを見ても特に炎上していない。だとすると……やっぱり、あの夜のことが何か関係していると考えるのが1番自然だろう。


『うん、分かりました。じゃあコラボはまた今度、ということで』

『……本当にごめんなさい』


 だが、俺がどれだけ詮索したところで無意味だ。神凪さんにさえ心を開いていない彼女の気持ちを、ポッと出の俺がどうこうすることは出来ない。たとえ、どれだけ彼女が落ち込んでいたとしても……


『お時間取らせてすみませんでした。それじゃあ……』

『ちょっと待って!』


 ……そう、『俺』じゃどうしようもない。でも、今の俺はミツメアイだ。姫川りんごの……そして、白姫さんの憧れだ。そんな彼女に手を差し伸べられるチャンスは、きっともう今しかない。


『……なんですか?』


 今にも消え入りそうな声でそう返してくる彼女の姿がやけに苦しそうに映った。ただの色眼鏡かもしれないが、それでも助けを求めているように見えた。なら、俺が……いや、(ミツメアイ)がやるべきことは決まっている。


『いや、今日は元気ないなって。何かあったんだとしたら……私に、話してくれないかな?』


 それは、建前(ウソ)本音(ホント)もいらない場所を作ること。彼女(リスナー)が楽しく過ごせるように、悩みも苦しみも忘れさせて元気を与えること。つまり……


(────配信、開始だ)


 こうして、2人きりの配信は始まったのだった。

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