04 生活
けんちゃんから教わった、ここでの暮らしの注意点あれこれ。
この家を取り囲んでいる森は危険な魔物だらけなので入ってはいけないこと。
家の周囲の開けている範囲までは結界で守られているので安全なこと。
一番近くの村でも、歩いて十日以上かかること。
召喚されたあの日から、ずっとこの家で暮らしております。
けんちゃんからいろいろ教わったり、
アヤさんからいろいろお世話されたり。
そして、僕なりに身の振り方について覚悟が決まりました。
あの遺言的な手紙。
『もし召喚が成功しても自分が死んだ時は、召喚された人に全ての財産を譲る』
迷惑料、で合ってるのかな。
この人里離れた一軒家にある全てと、冒険者ギルドっていう組合に預金として残されていた結構な額の蓄えが、僕がカレルさんから受け継いだ遺産。
戸籍がどうとか貨幣価値とかは全く分からないので、それら諸々の手続きに関しては全部けんちゃんにお任せしました。
カレルさんは半月に一度くらいのペースで『転送』魔法を使って買い出しに出かけていたそうですが、
もしひと月以上顔を出さなくなったらこの家に見回りの人をよこすよう冒険者ギルドに依頼していたそうです。
ちなみに、けんちゃんがタイミング良くここを訪れたのは、カレルさんに頼まれていたからではなく、もちろん偶然でもないのです。
理由は後述。
「サイリさんは、これからどうしたいのですか」
僕の望みはただひとつ。
ここでのんびり暮らすこと、です。
「なにか欲しいものとかあります?」
今のところ特に無いです。
「食べ物の希望とか好き嫌いなどは」
特に無し、と言いますか、好き嫌いどころか一日三食の献立が毎食同じでも全く問題無いです。
「もし良かったら、お世話してくれる使用人を雇うことも出来ますが」
生活必需品さえ配達していただけるなら、もうちょっとひとりで頑張ってみようかな、と。
「それでは、サイリさんがここで穏やかに暮らせるよう、いろいろ手続きをしてきます」
「四、五日ほどかかりますけど、のんびり待っていてくださいね」
お気をつけて。
……
そして、あちらの世界から引き続き、引きこもり生活継続中。
台所にある食糧保管庫は『収納』魔法とやらが使われていて、入れた物はいつまで経っても痛まないみたいです。
食事は三食同じ、硬いパンと干し肉と野菜と果物とお茶。
昔から食事には無頓着だったので、食べられさえすればどんなものでも不満無しです。
食欲も美味い不味いも自分なりにちゃんと感じてはいますが、食事へのこだわりは全くありません。
……
朝起きて、身支度して、朝食。
軽く運動してから、掃除と洗濯。
午前中は、大量にある蔵書から読みたい本を選んで読書。
お昼を食べたら少しお昼寝、起きたら読書の続き。
日が落ちてきたら、魔導ランプに灯りを灯してお風呂の準備。
お風呂から上がったら夕食、そして読書。
眠くなったら就寝。
魔導給湯器のおかげでいつでもお風呂に入れる環境なのは、カレルさんに大感謝です。
もちろん、魔導洗濯器・魔導掃除器・魔導水洗トイレなどの便利な設備も、ありがたい限りなのです。
この世界でここまで日常生活魔導具が充実しているのは凄いことですって、けんちゃんも驚いていました。
読書三昧ですが、好奇心を満たすためではないのです。
一度読んだ本でもしばらく経つと新鮮に読めちゃうという、僕のアレな記憶力の問題。
まあ、退屈しないことは間違いないです。
そもそもこの記憶力、投薬とかの治療でもどうにもならなかったことですし。
そんな感じの異世界引きこもり暮らし。
すごく僕らしい生活が出来ていると思います。