03 異世界
「僕のことは、けんちゃんと呼んでもらえるとうれしいです」
けんちゃんこと『鏡の賢者』さんが教えてくれたこと。
この家に残されていた日記や蔵書から知ったこと。
ひと言で言うと、僕は『召喚』魔法の実験の被害者でした。
リヴァイスと呼ばれているこの大陸。
他の大陸との交流は無いようで、なぜか外洋への航海は禁忌とされているみたいです。
地図を見ると、種族や文化圏によって大まかに五分割されています。
西側は、西洋っぽい文化圏の西方諸国。
東側は、いわゆる和風な文化の東方諸国。
北側は、魔法を重んじる国家が集う北方諸国。
南側は、獣人など人族以外の種族の集まり、南方諸国。
そして中央には、魔族と呼ばれる異種族が集う魔族領。
実に異世界って感じです。
大昔は種族間の大規模な戦争などがあったようですが、今はそれなりに平和みたいです。
魔王討伐みたいな厄介ごとのある異世界じゃなくて良かったですね。
ここは西方諸国の大国エルサニア王国の、人里離れた森の中。
元々は、アルカンさんという魔法使いが暮らしていた隠れ家的な一軒家。
凄腕の魔法使いのアルカンさんは、独自の召喚魔法の研究に生涯を捧げておりましたが、
雇われていたエルサニア王国の方針変更で召喚儀式が禁止になったことを不満に思い、弟子のカレルさんを連れて出奔。
いろいろあって、召喚士としてエルシニアという王国で雇われることになりました。
あちらの世界から召喚された人には特別な力が宿るらしくて、国力を増やしたいエルシニアと召喚魔法の研究を続けたいアルカンさんの利害が一致、ということだったようです。
そして、エルシニア王国としての初めての召喚儀式を無事に果たしたアルカンさんですが、残念ながら儀式で力を使い果たしてお亡くなりに。
その後、召喚された男性がお姫さまを連れて国を脱出したりと、エルシニアにとっての初めての召喚儀式は散々な結果となったようです。
結局、アルカンさんが命を懸けて成し遂げた召喚儀式は、エルシニア王国では失敗扱いされました。
弟子のカレルさんはエルシニアを見限ってエルサニア王国にあるアルカンさんの隠れ家に戻り、師匠の意志を受け継いで召喚魔法の研究を続けました。
そして満を持しての召喚儀式で僕を召喚、しかし残念ながら師匠同様お亡くなりに。
繰り返しますが、僕は『召喚』魔法の実験で呼ばれた召喚者です。
こんな経緯の異世界召喚。
しかもどうやら元の世界へは帰還不能。
でも、召喚されたことを恨んではいません。
僕としては、カレルさんたちのように命を懸けてでも成し遂げたい何かがある人生なんてうらやましい限りなのです。