13 解決
箱馬車は、アネスの町を目指しております。
御者をするイリーシャさんの隣に座らされて、いろいろお話し中。
詳しい事情を教えてもらえました。
イリーシャさんは、某国の騎士さま。
箱馬車の中にいる方の護衛の旅を続けているとのこと。
強力な治療魔法が使える優秀な魔法使いを探しての旅、ですって。
なぜ、お医者さまではなく魔法使いなのか。
厄介なことに、治療したいのは病気ではなく"呪い"なのだそうです。
「本来、呪いを解くなら呪術士なのだが、腕が良い呪術士ほど人と関わりを持ちたがらない」
「そして、呪いの進行を抑えられるのは強力な治療魔法のみ」
「つまり今は、優秀な呪術士と優秀な魔法使いを探している」
エルサニア王都の方から来たということは、そちらにはお目当ての人はいなかったのですか。
「出来るだけ手は尽くしてみたのだが……」
「もはや頼れるのは北方のメネルカ魔導国のみ」
なるほど、これから北へ向かうのですね。
えーと、がんばってください。
早く見つかると良いですね。
「…‥もしやサイリ殿は名のある魔法使いなのでは」
違いますよ。
さっきも言ったとおり、ド田舎でちょっとだけ魔法を習った程度の、冒険者に成り立ての新米魔法使いです。
「では、先ほどの異常に強力な睡眠魔法は」
偶然ですって。
あのおじさんたち、夜通しの宴会とかやってたせいで、きっとすっごく眠かったんですよ。
「アネスの町に着いたら、ぜひ診てほしい」
……分かりました。
僕に出来ることでしたら。
イベント、さらに継続中みたいです。
……
アネスの町に到着しました。
普通の宿場町って感じの町並み。
まあ引きこもりなので旅の経験なんて全く無いですし、ぱっと見の印象でしか語れないのですが。
早速、イリーシャさんが宿を取ってくれました。
そこそこ大きな、高級感のあるお宿ですね。
もちろん、ふた部屋ですよ。
相部屋なんてことになっていたら、どんな手段を使ってでも逃げ出しましたとも。
「よろしく頼む」
イリーシャさんたちの部屋に案内されました。
早く終わらせて、すぐに出立しないと。
なかなかに立派なお部屋です。
警戒した様子のイリーシャさんは立ったまま、腰の剣に手を添えてすごく緊張した面持ちです。
僕が少しでも変な行動を取ったら、即座に叩き斬られちゃうでしょうね。
部屋のベッドに腰掛けているのは、ベールをかぶった厚着の女の子。
たぶん、僕より歳下。
ひと言も喋らないけど、すごく具合が悪そうです。
早く診てあげないと。
それでは、『鑑定』
スーミャルシア・タリシュネイア
タリシュネイア王国第三王女
年齢:13歳
種族:ヴァンパイア (人族とのハーフ)
状態:『限りなき悪意の呪い』
……見てませんよ。
王女とか、ヴァンパイアとか、見てませんってば。
うー、なんだよこれ。
異世界イベント、仕事しすぎ。
盛り過ぎにも程があるでしょ、これ。
よし、可能な限り早く終わらせて、マッハでダッシュしてここから去るべし。
えーと、とっとと解呪しなきゃだけど、その前に。
『限りなき悪意の呪い』を『鑑定』
『限りなき悪意の呪い』
タリシュネイア王家に伝わる古代の禁呪
呪われた者は、ヴァンパイアを苦しめる要因の影響の全てを受け続ける
呪いは年齢と共に効果を増し、死ぬまで苦しみ続ける
誕生前からの施術が必要であり、追呪でさらに効果を増す
術式難度はとても高いが、効果も絶大
一度術式が起動すれば、解呪法は無し
ほう、つまりは、生まれる前から呪われてるだけじゃなく、今も呪いを追加されていて、生まれてから死ぬまで苦しめられ続けて、解呪も不可能、と。
……うん、決めた。
誰だか知らないけど、こんな酷いことを続けるのなら、覚悟があるってことだよね。
人を呪わば穴ふたつ、だっけ。
スーミャルシア様が今まで受け続けてきた全部、きっちり返してあげましょうか。
『限りなき悪意の呪い』を、
『呪い知らずの健康体(これまで受けた呪いを呪った者に全部まとめて返して、これからの呪いは即 三倍返し)』に書き換え。
はい、問題解決っと。
うん、僕のアレなスキルも、厄介なだけじゃなかったよ。
こういう理由なら、きっとけんちゃんだって許してくれるよね。
「サイリさまっ」
うひゃあ、ナニゴトッ。




