11 冒険者
小さな村です。
村と言うより、街道沿いに数軒寄り集まった集落、かな。
ちょいと眼鏡をずらして、ざっくり『鑑定』すると、
飲食出来る屋外休憩場を備えた宿屋
何でも屋的な雑貨屋
街道警備員の詰め所兼用の仮設冒険者ギルド
以上三軒の、小さな集落です。
それでは、まずは休憩場で一服しましょう。
「いらっしゃいませ」
「こちらへどうぞ」
こんにちは、一服させてもらいますね。
素朴な味のお菓子とお茶が、とても美味しいです。
「ずいぶん荷物が少ないようだけど、おひとりですか」
はい、気ままなひとり旅で田舎から出てきたばかりなんです。
えーと、この街道を南に向かうとエルサニア王都、で合ってましたっけ。
「そうですよ、って、ずいぶん呑気な旅人さんなんですね」
すみません、初めての旅なんですが、分からないことだらけなんです。
「この辺りはそれなりに安全ですけど、余裕があるならあそこの仮設ギルドで護衛を雇って案内してもらった方が良いですよ」
ご親切にありがとうございます。
「お気をつけて」
店員さんは、とても親切なお姉さんでした。
看板娘なのか宿の若女将なのかは、僕の薄々人生経験からは判別不能。
もちろん、暴発防止のため、余程のことがない限り、人の『鑑定』はNGです。
っていうか、ちゃんと普通に会話出来たことが、何よりうれしいのです。
引きこもりからのリハビリ、良い感じに出来てるよね。
それではこの調子で、仮設ギルドへ行ってみましょうか。
……
小さな建物なのに、中は広々とした空間。
強そうなお兄さんが数人、たぶん街道警備の人たちです。
あそこのカウンターが、ギルドの受け付けかな。
けんちゃんが手続きしてくれたエルサニア国民としての身分証は持ってるけど、
どうしようかな、せっかくだから冒険者登録、しちゃおうかな。
すみません、冒険者登録したいのですけど、こちらでよろしいのですか。
「はい、こちらへどうぞ」
……
国民身分証を見せたら、あとは書類に記入するだけ。
注意事項の説明を受けたら、
あっという間に冒険者になれました。
異世界冒険者サイリ誕生、なのです。
『俺たちの戦いはこれからだ!』
なんちゃって……
まあ、大事なのは肩書きじゃなくて、これから何を成すか、です。
でも、もちろん危険なイベントはNGですよ。
君子だけじゃなく、愚者だって危ないことには近付かないに越したことは無いのです。
それが冒険者の本分かどうかはさておき、です。
さて、依頼を張り出しているボードを拝見。
採集、討伐、護衛、などなど。
えーと、盗賊団に注意、ですって。
僕の『気配隠蔽』は十分に信用出来ますけど、気を付けましょうね。
やりたい依頼があったら、この紙を受け付けに持っていって受注するという段取り。
でも、今はいいかな。
こういうのってちゃんとした冒険者生活をしている人たちが必要としているものなのだから、僕みたいなふざけたスキル持ちが気軽に手を出しちゃダメだよね。
……
初のお出かけの記念に宿に泊まろうかと思ったけど、やめておきました。
僕みたいに野営で不自由していない人より、本当に寝床を必要としている人が泊まれるよう配慮しなきゃ。
眠気なんかもステータスいじりでなんとかなっちゃうので、本当は夜通し歩くことも出来ちゃうんだけど。
トラブル回避のために街道の夜の移動は禁止です。
僕自身は、強力な『気配隠蔽』でナニモノからも気付かれずに旅が出来ますが、
もし"盗賊に襲われている馬車"なんていう異世界モノ定番イベントに鉢合わせしたら、対応に困っちゃうし。
というわけで、今日は集落の裏手の林で『隠蔽』結界を張って、いつも通りに野営します。
おやすみなさい……




