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最後の戦いをもう一度

 私とメグは学校の屋上にいた。


 生徒たちは神姫バスに乗り、出発がいまかいまかと待っていた。


 すべてはこのときのために。


「義経」


 そう私を呼んでメグは跳躍するようにかけてきた。空を裂くように黒い鞘から刀を抜いて、私に斬りかかってきた。


「な、なんで警察がこないの!」


「警察だって万能じゃない。屋上はみえない死角だから。さあ、刀をとりな。義経」


 メグはもう一振りの白い鞘の刀を私に投げてよこした。


「義経ってやめてよ。わたしはカナだよ」


「いつから知っていたって聞かないのか?」


「どっちでもいいよそんなの。私が義経だと知っても、学校で友達と接してくれた。そうだよねメグ」


「さあ、どうだろう」


「私は信じてるから。だから、今度は本気でいくよ」


 カナは刀を拾うと、抜刀した。


「「いざ、尋常に勝負!!」」


 勝負は一瞬でついた。


 信じられなかった。


 私の喉元には刀を突き付けられていた。


 信じられない! 源頼朝は武芸ができる人間じゃない! これはメグだから……きっとそう。だったら、メグは源頼朝じゃないよねきっと。


「平家滅亡のために手を貸してほしいカナちゃん」


 また裏切られるかもしれないっと私の頭の奥隅で誰かが囁いた気がした。


「今度は裏切らないよ。私を信じてカナちゃん」


 メグは刀を収めると、私の手を取った。




 全国からたくさんの生徒たちが竹槍をもって、海に集まっていた。私とメグは真剣をもってるけど、いまのところ警察からのお咎めはない。コスプレとみえることを祈るとしよう。


「みなそろいましたね。ではこれより、最終決戦を行います。海上で平家を討ち、平城を落しましょう。いざ、海へ出陣!」


 体育の先生が用意した船はじつに10は超えてるような気がした。船にはぎゅうぎゅうになってみんな乗り込んだ。タコつぼもいいところだ。


 これだけの兵力が本当に必要なのだろうかっと私は思った。


「前方に平家の船およそ100! このままでは海をかこまれます!」


 偵察のものからメグは報告を受けて、困った顔をした。


「想定よりも敵の数が多い。総員! 竹槍で敵兵を殺さないように突け!」


 そんなことは無理だろうっとカナは思っていた。


「メグ。ここは私に任せて」


「カナちゃんに何ができるの」


「私はカナだけど、義経の記憶ももつの。だからきっとうまくいく」


「わかったわ。総員! 槍を持ったまま指示があるまで待機!」


 ありがとうメグ。さあ、いくよ。


 私は竹槍を隣の男子から奪うと、それで棒高跳びよろしく飛んだ。槍はすてない。次の船に渡るために必要だから。そして、敵の船について驚いた。船頭は機械で船の穂先でオールを持っていた。


「こいつを斬れば!」


「だれだお前は!」


 船の底からでてきた兵が声をかけたが、もう遅い。カナは機械の船頭の首を切り落すと、黒い煙が立ち上り停止した。


「次!」


 そして、カナはすべての船に飛び移り、操縦を無力化した。海の上には慌てふためく平氏達の光景がみれた。


「総員! 敵兵を捕縛せよ! 抵抗するものは海に沈めると脅せ! くれぐれも殺すなよ!」




 あとは平城に待つ敵将が一人だけだ。それは捕まえた捕虜たちの情報によってわかった。


 平城は東京湾から離れた海上に位置する。船でいけば、5分くらいだろうか。石垣が海の中から突き出しており、その上に白い平城がある。上のほうには黒と金で彩られた天守閣もあった。


 城は見上げるほどでかい。船着き場はその下にあって、木の乗り場から場内へと続いているようだ。


「ついたな。カナちゃん。一人で大丈夫か」


「うん。私が行くよ。いや、行かないといけないの」


「そう。理由はあえてきかないけど、くれぐれも気を付けて。絶対に戻って来て。30分経っても戻ってこなかったら、私が助けにいくから」


「心配しないで。私はきっと勝つよ」


 私はメグの船から降りて、平城の船着き場から城内へと入った。部屋をいくつも超えて、階段を何段も駆け上がった。そして、明らかにここより上は違うとわかる黒い天井に立派な階段が続いていた。


「おそらく次が天守閣」


 さすがに私も息がきれた。前世でかなり鍛えたとはいえ、今はただの女の子だ。私は畳の上で両足を放り出すように座った。


「疲れた。一休み」


 この上にいるのは誰なのか私は知っている。


 いつもやさしくて。会社の新商品を子供のように無我夢中になって家に持ち帰って遊んで。クリスマスの次の日には誕生日プレゼントを必ず用意してくれる。


「お父さん。待ってて。すぐ行くからね」


 私は知っていた。父が平家の人間であることを。夜中に電話で父が母に内緒で他の平家の人間と話していたのを。私は夜中に目が覚めて、電話の内容を聞いていた。それが何度も続いた。


 私は天守閣へと続く階段をゆっくりと上った。そこには私が思った通り、父がいた。


 赤い着物を着て、黒い烏帽子を被った父はさながら平氏のお殿様といったところだった。あぐらをかいている足元には黒い鞘に金で装飾された刀が置かれていた。その隣には同じ柄の小太刀があった。


「なんということか。カナよ。いつから源氏に味方していたんだい」


「やっぱりお父さんが総大将だったんだね。そりゃ気づくよ。夜中にあんな大声で電話してたら誰だって」


「ああ。そうか。そうだね。僕が平清盛だ」


「!?」


 因縁か。私を助けてくれた人。


「わたしは源義経。だけどカナだよお父さん」


「そうか。これも因果かな。ねえカナ。そこに座りなさい」


「はい」


「僕がどうして内閣府を攻め落とし、誰も殺さなかったのか。それはね。日本人が怠惰だからなんだよ。だれかが立ち上がらなければならなかった。腐った政治家の目を覚ますために。事実、警察や司法は僕の味方となって、今も手足となってくれている。正しきものが日本を導かなければならない」


「お父さんはこれから日本をどうしたいの? 平家が日本を支配したけど、校長先生は平家滅亡を企むし、何もよくなってなかったよ。むしろ悪化してる」


「いや、それでいいんだ。それこそが正しき日本人なのだから」


「どういうこと?」


「さっきもいったが、日本人は怠惰なんだ。危機になってはじめて動こうとする。そして、カナは僕の目の前にいる。それこそが、目覚めの証なのだから」


「よくわからないよ」


「子供のときはそれでいい。でも、いつかは大人にならないといけない。それがいまだ」


 父は立ち上がり、刀を抜刀した。


「いやだよ」


「なら、義経として戦え。戦いこそがお前の本能なのだから」


「家に帰ろうよ」


「この勝負にお前が勝ったらな。僕はカナが戦ってくれるまでここを動くつもりはない」


「わかった。勝つから、一緒に帰ろう」


「ああ、約束だ」


 私は鞘から刀を抜いた。


「てやあ!」


「いやあああああ!」


 私と父の掛け声が同時に鳴り響き、互いの剣が交差する。


「カナ! 本気を出せ!」


「出してるよ! でも、殺すのは嫌!」


「お前はやさしいね。てやあ!」


 父は後から木立を左手で抜き放った。


 私はかろうじて後方に退いて避けることに成功した。


「くっ。二刀流だなんて卑怯よ!」


「卑怯? それがなんだ。大人はみんな卑怯なんだよ。カナ」


 父の頭が光をともなって、私の目をくらませた。思わず私は目をつむった。


「頭が光るなんてどうかしてる!」


「大人はみんなどうかしてるんだよ。カナ。現実を受け入れろ」


 どうすれば勝てる。父の頭は今も光り続けて、私が目を開ければ目がくらんで、まともに父を倒すこともできないだろう。


「カナ。心を静めろ」


「お父さん?」


「理不尽を打ち破る力がお前にはある」


 私は父の言う通り、目をつぶり、心を静めた。すると、不思議と周りの音が聞こえてきた。カモメの声、風の音……そして、城壁を打ち付ける波の水音。


「いやあああああああ!」


 私は目をつむったまま、乳をみねうちで斬った。たしかな手ごたえがあった。


「お前の勝ちだ」


「うん」


 そして、私は父に勝った。目をあけると父が片膝をついていた。


「あのときとは逆になったな」


 片膝をついていた父に手を差し出して、立ち上がらせる。


「義経は平清盛に助けられたのをずっと感謝してたよ」


「そうか」


「カナちゃん終わったの?」


 メグが私の後ろに立っていた。顔に影が入っていて、口元が少し笑ってる気がした。きっと勝利に喜んでくれてるに違いない。


「メグ! 終わったよ!」


「そう……それはよくないわね」


「え」


 メグは私の横を歩いて、通り過ぎると、目にも止まらなぬ速さで刀を抜いた。


「ぐっ」


 お父さんの右腕の手首が宙に飛んだ。メグの刀が弧を描いていた。


「おとう……さん?」


「親子で殺し合うと思ってたのにとんだ茶番だったわ」


「ぐぅ」


 お父さんの右足の甲をメグの刀が縫いつけるように刺し貫いた。


「あははは! カナちゃんいい顔してる! 可愛い!」


「やめてよ! メグ! お父さんが死んじゃう!」


「さあ、最後の戦いをもう一度やりましょう」



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