第7話 ノーブルエルフと獣人・妖精の加護
世界中で実の輸送が慌ただしく行われている頃、世界樹では静かに時が流れていた。
熟した実の大半は、湖に落ちていた。世界樹の気遣いだろうと、地表に落ちた実を湖に入れながらノーブルエルフ達が話している。
ノーブルエルフ達の大半は、樹海とその周辺の調査に出掛けていたので 残った留守番組の仕事は僅かに残っている妖精達と熟した実を湖に戻す事だった。
調査から戻ったノーブルエルフは、樹海の安全を確認すると 自らの集落を造りながら生活環境を整える事になる。
その一つが・・・
北極点にある「世界樹」の真上に「太陽」と「月」が重なった時を、「エルフ歴元年1月1日、午後0時0分」と定めた。
この考えは、世界共通で各町(子爵領以上の町)の真上に太陽が来た時間を『午後0時0分』と定めた、そのため東西方向の町々には時差は出ないのだが、南北方向では少しずつ時差が発生した。
多少の誤差は、生活の不便と割り切りって、世界共通の時刻となった。
これにより、世界各地での伝承が正確に行える事になる。
集落を造りながらノーブルエルフの一部は、魔法陣を使い世界各地の調査を行っていた。
目的は、脅威となる種族(個体)の発見。祠の警護を任されたノーブルエルフは、脅威となるものが生まれていないか調査していた。エルフ族は、風属性なので他の属性の魔法陣は使用出来ない。そこで、集落に残った妖精達と共に調査に赴いていた。
「世界樹の有効性」や「神の祠の存在」を知られしまうと、欲に憑りつかれ自分の物にしようとする者(或いは利用する者)が現れるだろう。
「世界樹」は巨大でその存在を隠す事は出来ない、しかし、根元に鎮座する祠はエルフ達だけが知っている。祠を隠すため「世界樹の保護」として、樹海への立ち入りを厳しく禁止した。
じっさい、「世界樹の実」(知恵の実を指す)、「世界樹の葉」(神力を得ることが出来る)、「表皮」(これで袋を作ると空間魔法が使えるとか)は有用であったので迂闊に人族に渡らないようにすべきであった。
エルフ歴10年、一斉に世代交代が始まった。その混乱に中にごく少数キメラ化(本来生まれるはずの無い狸と猪の融合生物など)した動物の存在を確認したが、その後の観察では世代維持が出来ないのか自然に淘汰されたと報告があった。
世代交代の中、幾人もの獣人が確認された。
獣人の特徴は、以下の通りと報告があった。
・観察により判明したのは、人族と全種の生物が対象となっている。
・母体(主体)となった種族によりその生態が決まる。
人族が母体の場合・・人の姿をして、一部にその生物の特徴が現れている。
他種族が母体の場合・・基本・二足歩行であるが生体や皮膚状態は、元の種族に準ずる。
・相対的に各能力は、人より高く本来の種族より低い。
・人型獣人で元種族の特徴が現れた部分は、その生物の能力に準じている。
現在、知性があり獣の特性を併せ持った獣人の数は 全人族と比較すると圧倒的に少ないので脅威とはならないが 獣人は同族の群れを作る傾向にあるので 今後も経過観察が必要と思われる。
人族は、他の生物と比べてもその数は圧倒的に多い。身体能力が獣に劣る人族は、何らかの守護を必要としていた。多少の獣人だけでは、数のまとまった人族を守りきれるものではない。
その為、人族保護の為『精霊』『妖精』に守護するように言いつけていた。
自然現象たる『精霊』には、人族との意思疎通は出来ない。それでも、精霊は人族に触れる度に『加護』を与えた。しかし、まだ未熟な人族に受け入れる土壌は出来ていない。ごくわずかな人族だけが『精霊の加護』を受け取ることができた。その能力は、『自然災害』すら起こせる程だと言う。
各地に散らばっていた『妖精』達も、人族の世話を行いながら 適性のある者に『加護』を与えた。加護を受け取れる者は少なく、その加護を使いこなす者はさらに少なかった。
それでも、獣から断続的に餌として襲われる人族にとっては、救いの救世主となっていた。