第6話 六日目 守護する者と破滅をもたらす者
もう『神力』も残り少ない、最後の理を。
風の精霊により創られた妖精『シルフ』、特に指定しなかった為だろう想定していない数が創られていた。『ノーム』達は、ほぼ同数なのだが・・
ノームが創った『収納袋』は、各妖精に同数創られ配布された。『収納袋』は、所持の意志を示せば体内に取り込まれる。
熟成した『実』に触れると『収納袋』へと送られる。逆に『収納袋』をイメージし手を入れ『実』を取り出す事が出来る。その祭、忘れずに『知恵の実』も添えられる。
この『収納袋』を持っていない『シルフ』が大きな枝に集まっていた。誰に指示された訳ではない、ただ集まりたかっただけ。その集団から離れて、3人のシルフが幹に漂っていた。
『お前達に任務を与えよう。』
突然、頭の中に聞こえる声に戸惑う『シルフ』達。
『樹より人族の実を取るのだ。』
3人以外のシルフ達は、思い思いにまだ未熟な実を切り取り抱えていた。不安定な枝では、いつ落下するかもしれないと・・風に包みながら地上へと下ろしていく。
『お前達は、その実に宿りこの『世界樹』と祠を守るのだ。』
世界樹の根元に創られた、小さな祠がある。その祠を目にしたシルフ達は、実の中へと浸透していった。未成熟だった実がノーブルカラーに変わっていき・・次第に大きくなると・・・中から『エルフ』が出て来た。
後日、彼らは自らを『神により使命を与えれたノーブルエルフ』と呼んでいた。
実態化した彼らは、次の神託はと幹の3人を見上げていた。何故か、その3人が特別な任務を負うのだろうと理解していた。
それは声は、誰にも響いて聞こえた。それが、最も長身なシルフに向いている事も何故か理解出来た。
『では、お前に与える任務だが・・その前にあの実に宿り戻るが良い。』
その実がどれなのか説明も指示も不要だった。誰もが・・あの実・・だと分かっていた。もはや熟して生まれそうな実なのだが、どの妖精も運ぼうとしない不思議な実。見ただけでも分かる、この実は、・・『英雄となる人族』・・
実の前まで飛んでいくと、吸い込まれるように消えてしまう。次第に「ノーブルカラー」に変わると1体のエルフが生まれた。
地上に舞い降りると、祠に向かい傅く姿勢をとる。控えていたエルフ達も後に続く。
『お前は、長となりこの地を治めよ。』
次は、もっとも背の低いシルフ。ここからの信託は、直接送られ『ノーブルエルフ』達に聞かれる事は無かった。
『お前に与える任務だが・・少し待っておれ。』
集団の外れ、樹海の始まりの所に、自分と同じ位大きい『実』を持った『ノーム』が居た。『収納袋』を持っていないのか『実』を抱えて『樹海』に入ろうかと思案している様子だ。
『そこのノームよ、こちらに来るが良い。』
ビックと体を震わせると、キョロキョロと辺りを見回すが誰も居ない。更に視線は遠くに・・世界樹の下のエルフの集団に目がいく。どう見てもあそこから・・仕方なくおずおずと集団に近づく。
『ノーム、お前にも任務を与える。・・・シルフよノームの隣に立て。』
シルフが実のそばによると・・ノームと一緒に吸い込まれた。今度は、実の色が多色に変化する。グレー、ブルー、チョコレート、ライラックと変わり最後に濃いノーブルとなり・・一体の『エルフ』が生まれた。しかし・・少し様子が違う・・皮膚の色が濃い?そして、他のエルフより背が低くがっしりとしていた。
『お前は、2つの魂を持って生まれた。常には、シルフが出ているだろうが油断をすれば、ノームがその体を支配するだろう。』
不思議な感覚、自分の中にもう一人いるのが分かる。それは寝ていた・・起こそうとすれば、起きるのだろうが・・起こさなさい方が厄介後にならないと理解できた。
『お前の任務は、あの祠を破壊する事だ。』
思わず祠を見る。今の神託も誰にも聞こえないようだ、エルフ達は不思議そうに毛色の違うエルフを観察していた。
『神への祈りは、世界樹へと届く(それは神への神力として蓄えられる)。この世が戦乱により荒廃すれば、神への感謝も忘れ滅亡へと進むだろう。祠を壊せば、私に警告として伝わる(無意識の状態から意識ある神として起きる)。もし、荒廃して神への感謝も無い世界になっていれば、神の手により裁きが与えられる(神力の得られない世界は作り直す)。』
色の濃いエルフは、祠を睨んでいた。
『これよりお前は、世界を巡りその目により見てくるのだ。』
これで神託は終わったようだ。不思議な濃いエルフの挙動に、神託の聞こえなかったエルフ達は怪訝そうな態度で見ている。
最後のエルフへの神託。これも誰にも聞こえない。
樹の中間で小さな黒い『実』を捥ぐ・・時期が来たようにはじける『実』、下からでは良く見えないが、小さな黒い鳥?が見える。鳥を掌で包む様にして、さらに樹の上部へ移動すると・・もう熟して弾ける『実』がある。
その実に浸透するシルフ・・間を置かずに弾ける実、その中から出て来た『黒いエルフ』。背から翼を出すと大空に消えてしまう。
何が起きたのか分からず混乱しているエルフ達、神に尋ねても返答は無い。もう存在そのものが消えていた。同時に『濃いエルフ』も消えている事に気付いたのは、暫く経ってからだ。