第4話 四日目 精霊の子ら
順調に生育していた『世界樹の実』の成長が一斉に止まった。
様子を見ているが・・このまま待っても成育すると思えない。
見ていると・・疑問が・・
『このまま生まれたら・・?鳥なら飛び出せばいいのだろうが、人が20mの高さから落ちても大丈夫なのだろうか?南大陸へはどうやって移動するのだろう?』
『そういえば・・・大賢者が・・』
異形の者を駆逐して国が平穏になると・・国王から一人娘を託され、そのまま次期国王となり国を任されていた。英雄王となって、その信仰は始祖神を超える勢いとなり全国に広がっていた。
ある日、大賢者と名乗る者が仕官してきた。その者と話したという仲間の魔法使いは、その豊富な知識に驚き、話だけも聞くべきだと言ってきた。
大賢者は、そのまま王宮に住む事になり様々な話を聞かせてくれた。
その中のひとつ『魔法陣』。
魔法陣は、始祖神が設置した移動用の魔法。動力は、『神力』を使う為、力を失った魔法陣は作動しない。その為、作動させる『神力』を込める必要がある。
異形の者との戦いの旅の途中で、停止した『魔法陣』を見つけた事がある。神格化される前は、触ってもなんら変化が無かったが・・・神格化され始めると、触った途端 体から何かが抜き取られて『魔法陣』が発光し作動した。しかし、だたそれだけで何も変化はなかった。
さらに、2個目の『魔法陣』が作動すると、その用途が理解出来た。何かを抜き取られる度に、相互の『魔法陣』を瞬時に移動出来るのだ。
『魔法陣』の用途が理解出来ると、戦いはより有利になっていった。
それから『精霊』と『妖精』の話があった・・・
このまま、全ての精霊を呼び出しても・・・そうか、順があるのか。
だとすれば・・大賢者が精霊を使役した時に使った詠唱はたしか。
『風の精霊に命ずる、我が意の理となせ。』
世界樹を覆うように風が吹き抜けた。樹を覆う風は、まだ完熟していない実をいたわるように樹全体を包み込むと、消えるように吹き抜けていった。
未完成の『神力』の籠っていない実が成長を始めた。みるみるうちに色を付け・・その場で弾けた。
そこに居たのは、風の妖精『シルフ』。見ると生まれた時の赤子の様に無邪気で知性を持っているとは思えなかった。
『シルフ』は、実体を持たない。それは、色の付いた風。しかも今はいたずらを楽しんでいる。
樹の至る所で色付き風が舞い遊んでいた。やがて、風(自身)を三日月状にして鋭利に飛ぶと剃刀の様に切断できると分かった。
樹は、切り刻まれていく。赤子の遊びなので、樹本体に影響がある訳ではないが・・葉・幹や枝の表皮、そして未成実な『実』が切り落とされていった。
成長の途中で切られた実の『神力』は、実から抜け出すと樹に吸い込まれていく。それが面白いとさらに実を切り落とす『シルフ』。
落下した実に『地の精霊』が反応する。付近に落ちている『世界樹の葉』や『皮』から『神力』を抜き出して養分に成長した実は、地の妖精『ノーム』となる。
生まれた『ノーム』は、下草をかき分け『知恵の実』を探し出すと、ポリポリと食べ始めた。
それを見ていた『シルフ』も地上に降り下草を噴き上げる。『知恵の実』を見つけると風の中に取り込み粉砕して取り込んでしまう。知恵を身に着けた『シルフ』は、いたずらを止め『ノーム』の動きを見ていた。
その様子から知性を得た妖精同士なら会話が出来るようだ。
落ちた実の全てが『ノーム』になった訳ではない。数多くの実が地表に落ちていた、それに精霊を宿そうと『ノーム』が動く。
『ノーム』は、実体を持った妖精であるので、土の中を進む時はトンネルを掘る必要がある。しかし、土の精霊の宿った土中なら実体のまま移動出来る。
世界樹の周囲に潜った『ノーム』達は、土として物質化している『神力』を取り込む。物質を魔素化するわけなので『神力』が必要になるが、奪った『神力』を利用する事でゼロサムする事が出来た。
巨大な空洞は、自重に耐えられずに緩やかに沈没する。空洞化途中で遭遇した『地下水脈』から清水の様に湧き出る水は、毛細血管が拡幅される如く次第に水量を増して・・世界樹の周囲を湖とした。
水没した実に流れ集まった精霊が宿る。実が弾けて出て来たのは、水の妖精『ニンフ』。液体である妖精だが、水底から知恵の実を探し出すと体内に取り込み、小石とすり合わせて取り込んでいく。