第3話 三日目 世界樹
適温になった世界・・その北の大地に『世界樹』を植えようと思う。この地は、南の大陸と比べて小さな陸地だが、それでも島と呼べるほど小さくも無かった。
世界樹を植えようと始祖神が大陸の中心に手を伸ばす・・
『このまま植えても、また前(自分が居た世界)と同じになってしまうだろうな。やはり別の理が必要じゃな。』
一考の後、指に刃物を当てて 世界樹に一滴の血を落とす。(始祖神は精神体であるので、刃物で傷がつく事も無いし血も出ない。これは、のちに人族が創作したものだと言われている。実際、神の一部を与える事で『神力』を得た世界樹がその身に各種の生物を宿らせている。)
指から落ちた『世界樹』は、大地に触れると触手のように根を伸ばす。最初の根は、真下へ・・ただ水を求めていた。同時に生まれた3本の根は、互いが斜めに伸びていく・・これから巨大化する幹を支えるために。
根が張ると大地から水と養分を吸収するが、大地に眠る『神力』を取り込む事を忘れてはいない、樹の体内へと蓄積していく。
成長は続き、次第に強大化する幹と数え切れないほどに枝が分かれ伸びていく。
半日が過ぎると芽吹き始め・・葉が大樹を覆い始める。丸い葉、細長い葉、様々な形の『世界樹の葉』は、1時間で樹を緑に染め上げると・・枝から離れ、風に乗って空中をゆらゆらと漂い落ちて行く。
それぞれの葉に役割があるようだ。何れも大地に触れると、溶解した?次第に朽ちて消えてしまう。変わって大地から緑の絨毯が・・あちらこちらと点在して生まれた絨毯は、見る間に一面の草原へと変貌していく。
次に現れたのは、草から頭を出して伸びていく低木達、それに負けじと針葉樹や落葉樹が伸びていく。大地に眠る『神力』は、それが使いつくされるまで樹木達の成長を助ける。
やがて『世界樹』を取り囲むように、『樹海』が出来上がっていた。
世界樹の葉は、周囲に落ちただけではない。偏西風だろうか、海を越え南の大陸へも運ばれていった。やや遅れて南大陸も草原地帯と密林地帯に成長していった。
『世界樹』は、世界に草木を生い茂らせるだけではない。各種の生物を生み出せるのだが・・あくまでも始祖神の見知った生物のクローンでしかない。
しかも、本能や性格をある程度誘導出来るのだが、生まれてくる全ての生物に神への信心を与えるなど(必要とされる神力が多すぎて)出来るはずも無く。それぞれの生物に知性の種を与えてやれるだけだった。
知性の種は、スキルとは違い種族によっては発芽を優先する場合もあるが、大抵の種族は知性より本能を優先していた。それでも、全ての生物は、大なり小なり発芽によって多少の知性は持ち合わせる事になる。
『世界樹』が葉を蒔き始める頃から『世界樹の実』が枝のあちらこちらに生まれ始まる。これが原初の生物となり世界中に散らばって、おのれの種族の繁栄の為生存競争を生き抜き事になる。
『世界樹の実』を結実させる為に、世界に住まう生き物を選び出さなければならない。信心が生まれやすい人族を多めにすれば『神力』を集めやすいのだが・・争いを起こし滅び去る危険もある。
(英雄として戦った)以前の世界には、異形の者が人族を襲っていた。それと戦い始祖神となった訳だが・・異形の者がその世界の始祖神が生み出したのか、アクシデントで生み出されたのか分からない。同じように異形の者を『世界樹の実』に忍び込ませ、人族と戦わせて神への信心を集める方法もあるが・・あの異形の者との戦いを人族が生き延びるとは思えない。
『やはり、異形の者が現れるかもしれないとすれば獣人の助けも必要なのだろうか。』
異形の者との争いで大いに助けになったのが、『獣人』のその高い能力だった。しかし、最初から獣人達を『世界樹の実』にいれれば、能力に劣る人族が早晩駆逐されるだろう。
世界樹は『神力』によって出来ている、その為、全ての物(幹・根・葉・枯れ木も・実)に『神力』が宿っている。
実が生物を創る過程で消費されるが、全てが消える訳ではない・・
ちなみに、実を創る過程で結実できずに枯れてしまう実もある。茶色に変色し掌に収まるほどに萎縮した実を『知恵の実』と呼ぶ。世界樹の周りの下草をかき分けると、驚くほど見つける事が出来るという。