97回目 悪人・悪党を守る治安機関、そいつらを消すのが決まった瞬間
「このあたりで行方不明が出てると聞いてね」
「はあ……」
だからなんだと思った。
露骨に不愉快な態度をとる。
それが相手には気に入らなかったようだ。
「なんだその態度は!」
治安機関の男は、ヒロトシを怒鳴りつける。
最近、場末から浮浪者が消えている。
また、盗みなどの悪さをする者も減少している。
その話を聞いて、何故か治安機関が出しゃばってきた。
いったい何の用なのかと思っていたが。
どうも急に治安が良くなった場末の状況を確かめに来たらしい。
今更何をとヒロトシは思った。
ヒロトシ以外の者達も思った。
今まで何もしてこなかったのにと。
場末の治安が悪かったころ。
その時に治安機関は場末にはやってこなかった。
簡単な巡回すらもしなかった。
おかげで治安が悪かった。
それが、治安が回復してから出てきたのだ。
何だこいつらは、と思うのも当然である。
挙げ句に、治安を悪くしていた連中。
盗人や悪さをする浮浪者など。
そいつら消えた理由を聞きに来ている。
何のためにやってるのかサッパリ分からなかった。
(悪党が消えたから調査に来たのか?)
ヒロトシには何でそんな事するのか意味が分からない。
治安機関の仕事は治安を守ること。
つまり、治安を乱す連中を取り締まること。
場合によっては、その場で処分することも含まれる。
つまり、治安を乱していた盗人や浮浪者などを取り締まるのが仕事だ。
それが、そいつらを取り締まらず。
何故か対処したヒロトシらを追求しにきている。
もちろん、ヒロトシがやったと決まったわけではない。
あくまで調査や捜査に来てるだけだ。
しかし、何を調査・捜査してるのか?
その対象を大きく間違えてるとしか言いようがない。
かてて加えて。
守るべき対象を間違えている。
治安機関が守るべき対象は、真っ当に生きてる者達である。
場末と呼ばれる場所でも、悪さをせずに生きてる者達だ。
それなのに、悪さをしてる連中が消えたら調査や捜査に乗り出す。
それは、悪さをしてる連中の為に動いてるという事になる。
(何やってんだか)
ヒロトシは目の前にいる連中が何しに来てるのかサッパリ分からなかった。
何かわめいてるのは分かるのだが。
言いたい事が今の所チンプンカンプンだった。
ただ、求めるものが何なのかは何となく分かってはいた。
つまり、問題を起こしてるのはヒロトシたちであろうと。
そう言って脅迫してきてるのだ。
もちろんはっきりとそうは言わない。
ただ、言外にちらつかせている。
そして、逮捕されたくなければ賄賂を寄越せと。
そう言ってるのだ。
(さすが治安機関)
持ってる権限を使って悪さをするのはどこであろうと変わらない。
よく分かる魂胆を見て、ヒロトシは腹を立てた。
だが、今はまだ分が悪い。
なので、要望を受け入れる事にする。
ここでありもしない罪をなすりつけられるのも腹立たしい。
確かに盗人やタカリに来たのを始末した。
しかし、そんなの当然だ。
真っ当に生きる事を拒否し、悪さをして稼ごうとしたのだから。
そんな奴らを処分するのは、生きていく為に必要な事だ。
しかし、法律というのはそんな事を無視してくる。
身を守るために行動をしたら、それだけで悪人悪党扱いだ。
あまりにも馬鹿げてるので腹が立つ。
だが、今はまだそれに対抗する力が無い。
やむなく賄賂を渡して退散してもらう。
(そのうち処分するか)
横柄な態度の治安機関の人間が帰るのを見ながらそう決める。
魔石を集め、魔力を貯めて。
それから治安機関の連中を殲滅する。
屑を取り締まらず、真っ当に生きてる連中にたかる輩だ。
生きてる資格がない。
生かしておく理由もない。
盗人やタカリにきた連中と同じだ。
仕事もしないで、まっとうに生きてる者達から強奪していく。
そんな悪人悪党を放置するわけにはいかない。
だが、事を起こすにしても、力がまだ足りない。
もっと魔石を集めねばならない。
もっと魔力を集めねばならない。
相手は治安機関。
背後には貴族がいて、国がある。
それを全部的に回す事になるのだ。
それに対抗するには、相応の魔力が必要になる。
「もっと頑張らないと……」
決意が固まる。
片付けるべき連中の中に、より巨大な組織が組み込まれた。
その為にヒロトシは行動を活性化させていく。




