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転生先の異世界常識は遅れてる、そんなの守ってたら死にそうになるから見限って前世の効率的な方法を導入していきます、常識を覆して最大の成果を、そして社会もいっそ潰してしまいます、やられた分をやり返すために  作者: よぎそーと
7章 そもそもの発端となった、他人からみたらくだらないかもしれない、だけど本人にとっては重大事な出来事

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90回目 初めての新人教育

 半年ぶりに町に戻った。

 特になんの感想もなかった。

 ただ、空をあらためてみると不思議な感動があった。

(広いなあ……)

 そんな事を思ったりもした。



 そのまま場末まで向かい、以前泊まった宿に。

 たまった魔力を換金したので金に余裕はある。

 それを使って、今度は最上級の部屋に泊まった。

 とはいっても、やはりそう大したものではない。

 部屋の広さが10畳くらいになり、調度品が幾らか増えただけ。

 それでも、この世界ではかなり高級な部類なのだろう。



 そんな部屋に滞在した翌日。

 用事があるわけでもないので、そのまま迷宮に向かおうとした。

 町でやりたい事があるわけではない。

 そもそもとして娯楽が普及してるというわけではない。

 楽しみがそもそも無い。

 まだ迷宮に潜って稼いでいた方が気が晴れるというものだ。



 そんな所に声がかかる。

 この宿の主らしき男からだ。

 結構な年齢、少なくとも初老に見える親爺だ。

 声をかけられた事に少しばかり驚いた。



「何か?」

 面識があるわけではない。

 宿泊するにあたって事務的なやりとりはしたが。

 その程度の関係でしかない。

 そんな人間にわざわざ声をかけてくる理由があるのか?

 それが疑問だった。



 ヒロトシの疑問をよそに、宿の親爺は用件を告げてくる。

「少しばかり相談があってな」

 無愛想な顔と同様、無愛想な口調だった。

 ヒロトシに含む所があるわけではなく、もとよりそういう性格のようだ。

 あまり接客業向きとはいえないだろう。

 そんな感想を抱かれる態度で親爺は話を続けていく。

「良ければ、うちにいる若いのを連れていってくれねえか」



 親爺の用件は、新人の斡旋だった。

 前回と今回で金のかかる部屋に泊まったヒロトシ。

 そこから、ヒロトシが稼いでるのを察したという。

 それを見込んで、宿にいる探索者達を連れていってくれないかと言う。

 ろくに稼げない連中をだ。

「勝手を言ってるのは分かってるがな」

 確かに、とヒロトシは思った。



 ヒロトシが他の探索者の面倒を見る理由はない。

 自動的に作業をしていく機械を作った今、他人なぞ邪魔ですらある。

 それに、わざわざ他の人間と共に迷宮に行く必要がない。

 むしろ一人の方が楽だ。

 分け前も分散しないで済む。



 そういう事情を抜きにしてもだ。

 何の縁もない人間を連れていく理由がない。

 それなのに宿の親爺は、新人同然の連中をつれていってくれと頼んでいる。

「何でまた」

「簡単だ、生きて帰ってここに泊まってもらう為だ」

 分かりやすい理由である。



 宿屋であるならば宿泊客がいなければ商売にならない。

 だが、場末のこの場にある宿では、そんな客もままならない。

 まともに稼げる奴なら、もっと便利な所にある宿に行く。

 こんな所に来るのは、ろくに稼げないような連中ばかりだ。

 それでは営業するのも大変になる。



「それで、新人同然の連中を鍛えろと?」

「そうだ」

 はっきりと返事をしてくる。

「俺に利点がないんだが」

「そうだな」

 それも分かってるらしい。

「もし良かったらだ」

 親爺としても、無理強いは出来ないのは分かってるらしい。



 実際、ヒロトシには何の利点もない。

 新人同然の連中を引き連れていく。

 となれば、やり方を教えねばならない。

 なんでそんな手間をかけねばならないのか。

 利点が全く無い。



 それでも親爺が頼んでくる理由は、稼げば宿に金を落とすから。

 何とも分かり安い理由だ。

 それにヒロトシが付き合う理由がどこにあるのか?



 そう思ったのだが。

 ヒロトシは少し考えて頷く。

「分かった」

「本当か?」

 親爺も意外そうな顔をする。

 どう考えてもヒロトシに利点が無いのだから。

 しかし、

「ああ、他の連中を呼んできてくれ」

 ヒロトシはやる気になっていた。



「ただし」

 それでも最低限の条件はつける。

「連れて行くのはまともな奴だけだ。

 とにかく、気合いや根性なんて言い出すのはいらない。

 盗みやズルもしない。

 そういうのでなきゃ連れていかない」

「分かった」

 頷くと親爺は宿の階段をのぼっていった。

 宿にいる探索者を呼びにいったのだろう。

 話が早い。



 その日、数人の探索者を伴い、ヒロトシは迷宮に入った。

 新人同然の連中は、緊張しながらもヒロトシに従って迷宮の奥に。

 彼等が今までに潜ったよりもはるかに深い所へと向かう。

 そこでヒロトシによる強烈な教育を受けていく。



 乗合馬車で奥の奥まで進み。

 下手に逃げ出す事も出来ない所まで来る。

 その時点で、連れてきた連中の顔は蒼白になっていた。

 それでもやり方を教え、迷宮の奥で稼ぎを出すと顔色が変わった。

 迷宮内で滞在した二日三日。

 その間にこれまで以上の稼ぎを出した時は目の色がはっきりと変わった。

 人間、現金ほど人柄や性格、やる気を変える者は無い。



「ありがとうございます!」

 迷宮を出る時には、そんな盛大なお礼を言われた。

 その声を心地良く聞きながら、ヒロトシも笑顔を浮かべた。

「…………がんばれよ、他の連中が泡食うくらいに」

 そう呟いて、去っていく連中を見送った。

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