9回目 新人教育
やらせる事はそう多くはない。
まずは基本中の基本。
活動拠点の決定と、その周囲に警報などを設置する事。
迷宮活動における基本中の基本だ。
奥に行けば行くほど、外に出るまでの時間がかかる。
当然、何日かは迷宮内部で活動する事になる。
ある程度活動する場所を定めておいた方が良くなる。
寝たり食事をしたり、休憩をとる為にも。
その為にまず、居座る場所を決める。
それから周囲に警報などを設置する。
怪物の接近をすぐに察知出来るように。
同時に、怪物が近寄らないようにもしていく。
怪物が近寄らないように、虫除けのようなものを設置する。
迷宮ではこういったものを、魔除けと呼んでいる。
こういった措置をする事で、怪物が近づけない場所を確保する。
もちろん、強い怪物にはそれほど効果はない。
だが、雑魚であっても四六時中襲われる事は避けられる。
それだけでも手間が各段に減る。
更に、必要なら明かりなども灯していく。
迷宮内部はほのかに明るい。
天井・壁・床が淡い光を放ってるからだ。
その為、20メートルから30メートルくらい先までは見通せる。
だが、それほど明るいというわけでもない。
外の日中くらいの光が欲しいなら、自分達で用意しなくてはならない。
その逆に、眠る時などは暗闇を用意する必要がある。
なにせ、迷宮が発する光は途切れる事無く灯ってる。
眠る時にはそれが邪魔になる。
なので、意図的に暗がりを作る必要がある。
それも魔力を用いて発生させる。
こうやって、魔力を使って様々なものを用意していく。
それをヒロトシは新人にやらせていく。
やり方はもちろん教えるが。
実際の設置は新人に全部やらせた。
やらせておぼえさせていく。
その方が身につけやすい。
新人も最初は手間取ったが、教えられた事はしっかりとこなしていく。
なにせ、何十個と警報や魔除けを設置させられるのだ。
「こんなに必要なんですか?」
そんな疑問を抱くほどだ。
だが、ヒロトシは「もちろん」と答える。
それならばと、新人も言われるがままに設置していく。
嫌でもやり方をおぼえるというもの。
そして、それがヒロトシの狙いでもある。
とにかく数をこなさせる事。
それが身につける近道だ。
理屈や理論が必要な事はともかく。
今やってる警報や魔除けは、魔力があればそれほど難なく作り出せる。
あとは数をこなせば、やり方は自然と身につく。
その為に無駄といえるほど設置させた。
おかげで新人も、警報や魔除けくらいならば簡単に作り出せるようになった。
「あとは効率的な設置場所とかを考えられるようにしていけばいい。
けど、その前に、まずは作り方をおぼえろ」
その為に、必要以上に設置させた。
無駄に多く、というのは比喩でもなんでもない。
実際、必要がないほど大量に設置させている。
ただ、それでもさして問題は無い。
設置したものが無駄になるわけではない。
警報は、怪物が接近すれば発動する。
魔除けも、怪物が近づけば発動する。
それらが効果をあらわせば、ヒロトシ達は助かる。
これも必要な投資。
ヒロトシはそう割り切っていた。
その為に魔力を大量に消費する事にはなる。
だが、それは迷宮で怪物を倒せば回収出来る。
それよりも、新人がやり方をおぼえる。
そちらの方が大きな利益になる。
そう考えての事だ。
そうしてやたらと警報や魔除けを設置させて。
それから効果的な設置方法を教えていく。
少ない数で最大の効果を出せるように。
死角を無くして、効果が最大限に発揮されるように。
そのやり方も教えていく。
その為にも、まずは設置方法をおぼえてもらわないといけない。
それが出来なければどうしようもないのだから。
そして、教えるなら、一つ一つを習熟させてから。
一度に一気に全部はおぼえさせない。
そんな事が出来るほど頭の良い人間はそう多くはない。
この新人も、言ってみれば凡人だ。
一度に多くを吸収出来るほどの器用さはない。
そんな当たり前の人間だから、当たり前のように一つ一つ教えていった。
そのおかげと言うべきか。
新人は警報や魔除けの作り方と、設置の仕方をおぼえていく。
加えて、明かりの灯し方なども。
それは魔力の使い方の勉強でもある。
やっていく事で、まだ慣れて無かった魔力の使い方にも慣れていった。
途中で少々の失敗をしながら。
その失敗にしたって、何をどうすればしくじるのかを知る機会だ。
必要な分だけ必要な時に用いるように。
それを超えるのはどの段階なのか。
どこまでやったら、どこまでやらなかったら失敗するのか。
それをおぼえていく。
その失敗を、さして切羽詰まってない時に知っていく。
その事が、戦闘中などの命がけの瞬間での失敗を減らしていく。
失敗は失敗しても問題がない時にさせていく。
そうしながら、成功するための力加減をおぼえさせていった。