8回目 危険な奥地にあえて新人をつれてくる
「行くぞ」
乗合馬車で行ける奥地。
そこから更に歩いて奥地まで。
新人は「嘘だろ」と言わんばかりの顔でヒロトシについてきた。
迷宮経験のほとんどない新人にとって、やってきた奥地は危険地帯である。
周囲に味方になるような探索者もいない。
出てくる怪物の数は多い。
中には強力極まる個体もいる。
そんなのが出て来るのが、迷宮の奥地だ。
そんな所に新人の身で連れてこられたのだ。
顔面蒼白になるのも無理はない。
それでもヒロトシについていく。
他にどうしようもないからだ。
もう迷宮の奥地である。
ここから帰る事は出来ない。
乗合馬車の運賃を払う事も出来ない。
当然、一人で過ごせるはずもなく。
生き残る為には、経験者であるヒロトシについていくしかない。
ヒロトシもそれを狙ってる。
安全な場所では、余裕があるから連れてきた連中が文句を言うことがある。
それを消すためには、自分にすがらせるしかない。
ここでヒロトシの機嫌を損ねたら、命がなくなると考えさせる。
そうする事で、余程のバカでない限り、ヒロトシに従う。
偶にバカもいるが、そういうのは容赦なく怪物の中に放り込む。
経験上、そういうのを生かしておいても碌な事にはならない。
その事をヒロトシは身をもって知った。
そういう処分をするために、あえてここまで新人を連れてくる事もある。
宿での面談でそれを察し、実際に奥地まで連れていって確かめる。
極限の状況に追い込まれると、人は本性を見せる。
その本性を見て判断する為だ。
結果として、不合格・落選の判定をする事が多い。
今回の新人はそういう事がないだけマシだった。
腰が引けてるが、それは当たり前。
危険地帯にやってくればそうなるものだ。
むしろ、そういう反応を見せるだけマシでもある。
(危険はしっかり分かってるようだな)
生物としての本能はしっかりもってる。
それが感じられる。
危機感は大事である。
それを感じる事が出来れば、早い段階で危険を悟れる。
そうすれば、事前に対策や対応が出来る。
また、不毛で無意味な努力をしない。
無謀を勇気と偽って努力しない。
恐怖を感じるというのはとても大事な事だ。
それを感じる事が出来るなら、無理・無茶・無謀はなりを潜める。
そういう慎重さがヒロトシには好ましい。
何よりありがたいのは、言う事を聞くようになる事だ。
余程のバカでない限りは、こういう所で経験者の言う事を聞く。
教育環境としては最高だ。
「それじゃ始めるぞ」
新人に宣言する。
活動と教育の開始を。




