79回目 その日あった事
最悪だった。
一言で言えばそうなる。
そういうものだと覚悟はしていたが。
しかし、現実はそれよりも酷かった。
(まあ、こういう所はそんなもんなんだろうけど)
迷宮探索者になるにあたり、連れていってくれる探索者がいないか探した。
もちろん、そんな気前の良い探索者などいない。
命がけの戦闘をせねばならないのだ。
わざわざ素人を連れて行く物好きはいない。
そもそもとして、探索者に必要な事を教える者もほとんどいない。
一部の引退した探索者が、半分趣味で塾を開いてるくらいだ。
それとて一度に受け付けられる人数には限界がある。
少数精鋭主義というわけではない。
人間が一度に教える事が出来る相手には上限がある。
無制限に人に教えるられるわけがない。
人間一人に出来る事には限界があるのだ。
そんなわけで、探索者志望の大半は未経験者になる。
そんな人間を好んでつれていく者はまずいない。
もちろん、世の中には例外がある。
素人だろうが関係なく受け入れる探索者集団も。
ただ、そんな連中がまともである可能性は極めて低い。
ブラック企業のようなものだ。
中には素人を少しは教導し、戦力にしていこうという所もある。
だが、大半は素人を使い捨ての駒として扱っている。
その中で多少は使える奴が生き残れば良いと考える連中が。
そういう所に入れば、確実に殺される。
なので、多くの者はそういった所は避ける。
それでも、他に行く宛がなければそういう所に入る事も考える。
使い捨て扱いされようとも、やり方をしらずに迷宮に入るよりは良いと考えて。
それはそれで間違っているのだが。
そしてヒロトシだが。
運が良いのか悪いのか。
一応、探索者集団に入る事は出来た。
新人を使い捨てにするような所でもない。
しかし、それでもマトモであるかどうかは悩ましい。
そこは親の知り合いが率いてる探索者集団だった。
なんでも、ヒロトシの近所の連中で構成されてるような所だという。
現代日本に無理矢理絡めていうならば、町内会のようなものだろうか。
そんな隣近所で出来上がってる団体。
それに近いものがあった。
あるいは、近隣の者達で作られた少年野球チーム。
少年サッカーやバスケット、バレーなど。
そういったスポーツ集団に近いかもしれない。
将棋や囲碁などの集まりでも良い。
そんな性質の探索者集団だ。
地元の企業と言っても良いかもしれない。
それほど大きな集団ではないが、手堅く代を重ねて活動している。
近所の伝手でヒロトシはそこに入る事になった。
だがそれはヒロトシからすれば最悪としか言いようがなかった。
ブラック企業と似たようなものだ。




