76回目 その後の選択
「俺はこれから他の町も潰していく」
それは話し合いでもなんでもない、一方的な宣告だった。
「当然、国も黙ってないだろう。
軍隊も出て来る」
そうして告げられる内容に、全員が耳を傾ける。
嫌でも自分達に関わってくるだろうから。
「だから、ここにいるか、逃げるか。
好きな方を選べ」
言われて彼等は状況をだいたい想像した。
ここにいたら、外から軍隊などがやってくるだろう。
それを考えば逃げた方が良い。
しかしだ。
逃げたとてどうなるのか?
他の町に逃げても、いずれはヒロトシがやってくる。
その時は、この町と同じような事が起こるだろう。
ならば逃げる意味はあるのか?
今日と同じように生き残れるのか?
悩む者達にヒロトシは宣告を続けていく。
「ここにいるなら選別をする。
駄目な奴はこの場で処分だ。
そこを通った奴だけ残す」
その言葉に大半が震え上がった。
無条件で生き残れるわけではないと知って。
では逃げようかと思ったが、
「町の外に出たら、もう守るつもりはない。
新人の頃から面倒を見てきた探索者の連中もだ。
外に出た時点で敵と見なす。
今度どこかで顔を合わせても、ここと同じように処分するからそのつもりで」
逃げ場はどこにもない。
結局、選ぶしかない。
ここで選別に漏れて殺されるか。
町の外に出て、いつかやってくるヒロトシに怯えて暮らすか。
もちろん、選別をくぐって生き残る可能性もある。
町の外の者達に事情を説明し、ヒロトシ討伐を企てるのも良いかもしれない。
しかし、そうした対策が上手くいくとは思えなかった。
ヒロトシなら何らかの手段を講じている。
そう思わせるだけの実績がある。
今この探索都市がどうなってるか。
それが証拠だ。
ならば、と誰もが思った。
可能性に賭ける為に。
場末の宿の常連は、ほぼ全員が町に残る事を決意した。
この場で死ぬ可能性もあるが、そうでない可能性もある。
それに、町の外に出るよりも可能性がある。
そう思えたからだ。
ただ、ヒロトシとの付き合いの短い者達ほど逃げる事を選んでいく。
死ぬ可能性を考慮して町に残るよりもよっぽど良いと思ったのだろう。
確かに、可能性はある。
少なくともこの場で死ぬ可能性は低い。
何より、外との軍事力の差。
それを考えた。
ヒロトシがそれを上回るとは思えないと。
そうした者達が町の外へと向かっていった。
ヒロトシもそれを留めたり遮ったりはしない。
そんな手間をかけるのもばからしいと思っていた。
それよりも、残った者達の選別である。
わざわざ手元に置くのだ。
ロクデナシを残すわけにはいかない。
場末の宿の常連は大丈夫だが。
それ以外の、常連達が連れてきた連中は選別しなくてはならない。
「それじゃ、やるぞ」
言ってから魔力を使う。
もっとも、既に選別は終えている。
とっくに魔力を使って、考えや性格などは読み取っている。
今はあらためてその再確認をしてるだけだ。
前回から好転してるなら良し。
そうでないなら、この場で片付けるだけ。
結果はすぐに出た。
表面は良いけど、腹に何か抱えてる奴。
それを殺していく。
幸い、場末の宿の常連達にはそうした者はいなかった。
それだけが救いだ。
ヒロトシがすくい上げた連中がマトモだったのは。
しかし、それらが連れてきた者達。
それと、場末の宿の周辺にいた者達。
宿の常連と関係のあるこれらだが、全員がまともというわけではなかった。
生き延びる為にヒロトシにつこうとしたり。
内部の情報を探って外に持ち出して取り入ろうとしたり。
そんな事を考えてる者もいる。
そういう奴らは、生き残る為に何でもやる。
いや、そうではない。
生き残る為に他者を蹴落とす。
生き残りをかけた場合でなくてもだ。
自分以外の誰かを貶して罵らずにはいられない。
蹴落とさずにはいられない。
それが楽しくて仕方が無い。
そういう連中が、卑屈に他人の顔を伺う。
じっくり観察してるとも言う。
上手く出し抜くために、世の中を上手く泳ぎ抜くために。
人への思いやりやいたわりなど無い。
それを踏みにじる者への断固たる態度も持ってない。
そういう連中が紛れ込んでいた。
それらを全て粉砕していった。
文字通りに、魔力で頭を粉々にしていく。
ついでに霊魂と呼ばれる部分も消化・吸収していく。
魔力を使うようになって分かった事だ。
魔力と呼ばれるものが、人が持つ生命と似通ったものだと。
人だけではない。
動物や植物、およそ命があると呼ばれてるもの。
それこそ、石や風などにすら微量ながら含まれている。
それらを消化して吸収していく。
転生などを防ぐために。
生命は流転して再びこの世にやってくる。
その場合、今回の出来事をおぼえてる可能性がある。
ヒロトシがこの世界に転生してきた時のように。
それは防がねばならなかった。
いずれ敵になる可能性があるからだ。




