74回目 探索都市が終わる日 3
憶測や予想。
あるいは、妄想や夢想。
そう言ってよい事が統治者の館の中で囁かれていく。
知り得たわずかばかりの情報。
それらを都合良くつなぎ合わせるための妄想。
真相や真実とはほど遠い作り話。
それが次第に熱を帯びて館の中に蔓延っていく。
真相はどうでもいい。
納得出来る理屈が欲しい。
それが屁理屈でもかまわない。
……不思議なもので、人間にはこうした性質がある。
嘘でもなんでも構わないのだ。
ありえそうと思える話であれば。
原因や理由が分からない時、人間はそうしたものを求める。
今、ゴーレムに追い込まれた者達がまさにそうだった。
なぜこんな事になったのか。
どうしてゴーレムが出現したのか。
その理由や原因を求めた。
求めて頭を使っていった。
そんな事で理由や原因が分かるわけがない。
真相にたどり着けるわけがない。
原因の究明がなされてるわけではないのだ。
ただ空想や想像でしかないのだから。
いっそ、妄想と言ってもよい。
だが、統治者の館に逃げ込んだ者達はそんな事に頭を使っていく。
もっともらしい屁理屈に納得し、それを更に補強していく。
とめどなく続いていく連想ゲーム。
それはもう推理や帰納といった思考による原因究明ではない。
創作活動としか言いようのないものだった。
不毛極まる行為だ。
現状を改善する事もない。
それでいて真相にたどりつく事もない。
強いて利点があるなら、目の前の問題から目を逸らす。
それによって恐怖から逃げられる。
それくらいしか意味が無い。
現実からの逃避である。
「馬鹿馬鹿しい……」
そんな状況を見て、そう呟く者もいる。
全員が不毛な熱狂に取り憑かれる中。
わずかな例外となる者達は、そんな馬鹿げた遊びを無視して現実を見ていた。
壁を破壊してるゴーレムと、それへの対処を。
とはいえ、それも意味があるわけではない。
対抗手段はない。
逃亡手段もない。
そうなれば待ってる結果は一つ。
「全滅か……」
嫌な話である。
だが、そこまで冷静に考える事が出来る者は、取り乱す事もなかった。
胆力があるとか、勇気があるわけではない。
どうしようもないから諦めてるのだ。
ジタバタしたってどうしようもない。
そんな状況で暴れてわめいてどうするのか?
事態の解決になるならそれも良いが。
ただ、無駄に体力を使うだけでしかない。
なんにしろ、状況打開を思いつく者はいない。
それが可能な状態ではない。
そんな彼等に出来る事は、終わりの瞬間が来るのを待つだけ。
その時も、それからほどなくやってくる。
統治者の館の壁が破壊された。
それも複数方向から。
そこからゴーレムが侵入してくる。
既に魔力を切らした彼等に対抗する手段は無い。
建物に入ってない壁を破壊し、通路を確保しようとするゴーレム。
それにあわせて、支えを失って崩壊を始める統治者の館。
そんな中で行われる、生き残り達最後の抵抗。
剣も槍も斧も弓も通じないゴーレムに、それでも生き残り達は立ち向かっていった。
それらを無視してゴーレムは、ただひたすら建物の破壊に勤しんでいった。
そして。
ゴーレムの活動は実を結ぶ。
建物は崩れて倒れ。
中に居た者達を巻き込んでいった。
探索都市における最後の抵抗。
捕縛されてない生き残り。
それらの大半が、建物の下敷きになって潰れていった。
探索都市の終焉は、こうして名実共に示されていった。




