70回目 迷宮の奥にあるもの
迷宮の奥地。
他の探索者も踏み込まないほど深い場所。
そこにヒロトシは向かっていく。
自動車などは使わない。
魔力で能力を強化し、常人を超える速さで奥へと進んだ。
そこまで踏み込むと、雑魚と言われる怪物が途切れる事無く出現する。
それより強い強力な怪物の出現数も上がる。
通常の探索者だと、さすがにそれ以上踏み込めない。
進もうにも、怪物の数が多すぎてどうしようもない。
倒しても倒しても次々あらわれる新手に足を止められる。
それらをヒロトシは魔力を大量に使って倒して行く。
通路に向けて指向性の爆発を放っていく。
あるいは魔力の塊を放り込み、それを破裂させる。
数多くの怪物も、そういった攻撃で一網打尽にされていく。
魔力の消費も大きい。
だが、消費した分は即座に補充が出来る。
倒した怪物が落とす魔石ですぐに補充が出来る。
そうして補充を繰り返しながら奥へ奥へと向かっていく。
そうして到達した迷宮の奥深く。
探索者が通常なら入り込まないほどの深み。
そこでヒロトシは足を止める。
彼が設置した機械群の前で。
「おう、順調順調」
設置した数多くの機械。
魔力で動くそれらの作り出した成果。
それらを見て笑みを浮かべる。
設置してある機械は、ヒロトシが作り出したものだ。
それらが集まって、一つの作業を繰り返している。
すなわち、怪物を倒して魔石を集める。
それを自動的に行う機械。
ヒロトシが作って設置したのはそれだ。
それは工場だった。
怪物を魔石に加工処理する為の。
その為だけの道具が揃っている。
その為だけに動く機械が並んでいる。
全てが自動で行われるように作られている。
それはヒロトシがかつて迷宮の奥まで進んだ日。
その時に作ったものだった。
その当時持っていた武器などを材料にして。
それらに使われていた金属などを、魔力で複製・増幅していき。
そうやって増やした材料を使って形を作り。
魔力を燃料として動くようにしていった。
そうして作った機械で、怪物を自動的に倒していく。
怪物から魔石を自動的に回収していく。
回収した魔石で活動時間を回復していく。
そして余った魔石を貯蔵していく。
それらを作って増やしていき、ヒロトシは迷宮の奥に工場を作り上げていった。
広大に広がる迷宮の中に。
そこに自動的に全てをこなす機械群を。
その効果は大きく、ヒロトシに莫大な魔力を提供してくれた。
それはもう何点分になるだろうか。
何十万や何百万。
その程度ではきかないほどになってる。
その莫大な魔力は、探索都市で消費される一日の魔力量を遙かに超える。
最低でも数日。
いや、何ヶ月かの消費を支えられるだろう。
それだけの魔力を使い、ヒロトシは更に工場の規模を拡大していく。
魔力を回収するための戦闘機械を増やし。
倒した怪物から魔石を回収する機械を増やし。
戦闘で壊れた機械を修理する機械を増やし。
魔石を貯蔵する機械を増やす。
それらを制御して統括する機械も。
その全てを為す為に、多くの魔石を消費する。
魔石に込められた魔力で、物質を増幅する。
魔力は様々な用途に使われるが、こうした物質の増幅に用いる事が出来るのは知られてない。
消費する魔力が莫大になるからだ。
鉄を1グラム増幅するのに、何百という点の魔力が求められる。
それだけの大量消費をする事もないから、この事実に到達する者は少ない。
だが、この効率の悪さも、大量の魔力が集まるなら話は変わる。
途切れる事無くあらわれる怪物。
それがもたらす魔力。
何百という点数など、それらがすぐに賄ってくれる。
それらを倒す機能を設置しておけば。
怪物退治の自動化。
それがヒロトシの思い至った結論だった。
前世の記憶が幾らか作用している部分だ。
もし、怪物退治を機械化出来たら。
人の手を離れて作業としてこなすようになったら。
それを思いついて実行にうつした。
幸い、魔力は大量にあった。
それを使って知能を増大。
どうやったら自動化できるかを考えた。
結論はすぐに出た。
そうして作り出した機械のおかげで、作業は簡単に進んでいった。
ヒロトシが手を出す必要がないくらいに。
最初の一台を作るのは手間だったが。
一つ出来たらあとは楽だった。
何せ、戦闘のほとんどは機械がしてくれる。
そんな機械を幾つも作って戦闘をさせていった。
それから魔力の回収を専門とする機械を作り。
集めた魔力を貯蔵して、必要な時に機械に補充する機械も。
必要な機械をその都度増やし、迷宮の奥に工場を作っていった。
その工場に貯まった魔力。
それを使って規模を更に拡大していく。
まだまだ魔力は必要になるので、その確保は続けていく。
誰にも知られることなく、ヒロトシはこの探索都市で一番の魔力を稼いでいた。
誰もが到達出来ない場所で。
その事実を知る者はヒロトシしかいない。
普段、ヒロトシが単独で迷宮に潜る場合。
その時には怪物退治などさほど行っていない。
少なくとも直接は。
その大半は機械が行っている。
持ち帰る魔石も、それらが確保したものだ。
直接的な作業はほとんどする事はなくなった。
機械を使った間接的な労働がほとんどになっている。
その労働成果は、驚くほど大きなものだ。
人間の探索者を使う必要がないほどに。
これがヒロトシが作り出した成果である。




