68回目 統治者への「ざまあ」 3
「統治は今まで通りに続けろ。
ただし、俺が何をしようと取り締まるな。
俺から何かを取ろうとするな。
問題があるなら、俺に楯突いた連中を取り締まれ。
いいな?」
当面、ヒロトシはそれだけ要求をした。
まず、統治そのものは面倒だ。
それに旨みを感じない。
なので、引き続き統治者にやらせる。
ただし、ヒロトシが不利になるような事はさせない。
例えヒロトシに非があっても、ヒロトシと対立するものを取り締まる。
「今まで俺が一方的に不利だったんだ。
それくらいやれ」
それがヒロトシの言い分である。
実際、何があってもヒロトシの方が不利だった。
問題を起こしてるのはヒロトシではない。
にも関わらず取り締まり対象にされる。
よくても、相手と一緒に対象にされる。
非がないにも関わらず問題を起こした人間として処理されようとした。
納得出来るわけがない。
「だからこれからは、俺の敵を一方的に取り締まれ。
必ず処刑しろ。
無罪放免とか執行猶予とか、そんなの認めない。
全員処分だ」
統治者にそう告げる。
相手の意志は聞かない。
聞く必要がない。
承諾以外の返事は認めてない。
「あと、今まで俺からぶんどってた金。
それは返してもらう。
もともと不当に強奪してたもんだしな」
揉め事があるたびにヒロトシが払っていた金だ。
それらも今までは効果があったから支払っていたが。
全てを反故にされたのだ。
納めておく必要が無い。
「利子をつけて返してもらう」
それが当然の措置だ。
結果として、統治者の金庫から全ての金銭が持ち出されていく。
「それと。
あんたの女房と娘、結構美人だな。
それももらってくから」
こちらは慰謝料である。
今まで散々我慢したのだ。
その分の鬱憤を発散しないと気が済まない。
「それと、あんたの所の嫡子。
この通り、処分しておいたから」
そう言って首を統治者に放り投げる。
まともに動かない体の統治者は、それを見て泣いた。
「なんだ、そんなに家の断絶が問題か?」
泣いてる統治者を見てヒロトシは呆れる。
「だったら養子でもなんでもとればいいだろ。
何泣いてんだ?」
理由がさっぱり分からない。
貴族なら家の存続が大事。
その為に子供を求めるものだが。
だったら、適当な子供を持ってくればいい。
替えは幾らでもきく。
それが貴族である。
そのはずなのに、子供の死を嘆く。
意味が分からなかった。
「だいたいな」
言いながら再び統治者を蹴る。
宙に舞う。
「それで嘆くくらいの人情があるなら、俺の事も察しろ。
それもしないで自分の事だけ嘆くんだから。
本当に自分勝手だな」
それもあってヒロトシは容赦が無い。
「あと、あんたの女房と娘。
それのガキが出来たら、あんたのガキとして育てろ。
後継者問題はそれで解決だ」
そうも告げる。
砕かれた顎から統治者は嘆きの声をあげる。
当然ヒロトシは蹴りをくれて黙らせる。
「何泣いてんだ?
政略結婚の道具だろ、貴族の嫁や娘なんて。
それに必要なのは後継者であって、血筋や種なんて気にしないだろうが。
こいつらが生めばそれがこの家の後継者。
そういうもんだろ」
それが政略結婚というものである。
人間を道具として扱うのだから、それも当然である。
結婚を政略の手段、子供は家を継承させる道具。
そうであるならば、目的である家の存続が出来るなら御の字のはずだ。
わざわざ自分の子供である必要も無い。
それこそ配偶者以外の子供であっても問題は無い。
家に関わりのある人間であれば良いのだから。
この場合、統治者の配偶者と娘から生まれる子供になる。
それをヒロトシは後継者にしろと言っている。
何も問題は無い。
その父親が誰であろうともだ。
血筋ではなく、家名。
大事なのはそちらのはず。
そのこだわりに則って、ヒロトシは後継者を用意しようとしている。
なんなら、それ以外の子供を養子にしろとも。
それなのに統治者が泣く意味が分からなかった。
うれし涙ならともかく。
とてもそうは思えないから不思議である。
「安心しろ、折角の美人だ。
俺も頑張って励むから。
腹がふくらんだら一旦返す。
出産するまで大事にしろ」
それまでは預かる。
そして、生まれたら回収する。
そう言っている。
統治者はそれを察して、また泣いた。
泣いて、またヒロトシに蹴られた。
「泣くな、鬱陶しい。
笑え!
家の存続が出来るんだぞ!」
敵であってもヒロトシはそこまで考えてやっていた。
せめてもの温情として。
「ただ、外に漏れたら面倒だ。
だから、上手く隠蔽しろ。
そこも含めて、全部お前にまかす。
俺の手をわずらわせるな」
最終的にヒロトシが出した条件はこれだ。
面倒な事は全部やらせる。
ヒロトシに不利になる事は何もさせるな。
ただこれだけだ。
「俺への利益供与とか、そういうのはいらないから。
不当に搾り取りに来たら潰すけど。
そうでないならお前らの好きにしろ」
それもはっきりと伝えておく。
利益などは何も求めない。
そんなもの必要は無い。
ただ、面倒を持ち込むな。
それだけがヒロトシの願いである。
それで手を引くというのだ。
かなりの緩い条件と言える。
「あ、愛人もいるのか。
わかったそいつも確保しておく。
ただ、男は面倒だから処分な」
統治者の頭を読んで、それも知る。
愛人に妾、側室はそれなりの地位にいる者ならば珍しくもない。
この統治者にもそれがいた。
そちらもしっかりと手を回していく。
残っていると、後々の面倒につながりそうなので。
「あと、お前は今後は二度と女は作るな。
血を引いた後継者がいると面倒だ」
それも付け加えてから統治者の怪我を回復させていく。
ただ、骨を粉砕した手足は歪な形で回復させた。
まともに動けないように。
それくらいの処置はしておかないと、今後が面倒になる。
「それじゃ、これからも頑張って統治してくれ。
俺に面倒をかけないならそれでいいから」
そうしてヒロトシはその場を後にした。
統治者はそこで大声で涙を流した。
舌を噛んで自決出来ないように、歯を全部粉砕された口で泣き叫びながら。
こうしてヒロトシの報復は一段落した。
受け続けた不当な扱いへの。




