67回目 統治者への「ざまあ」 2
ここに来て統治者はある程度理解しはじめた。
地位や身分などが何の役にも立たない事を。
単純な力の差。
それが大事だという事を。
それを踏まえた上で統治者は目の前のヒロトシに尋ねる。
「分かった、もうお前らに手は出さない」
その返事として、ヒロトシは統治者を蹴り上げた。
強化された脚力によって、統治者の体が宙に舞う。
「まだ分かってないな」
ヒロトシは呆れるしかなかった。
「お前が俺達に許可を出すんじゃない。
俺がお前に命令を出すんだよ」
統治者は確かにある程度理解はしてきていた。
しかし、まだ決定的なところまでの理解が及んでなかった。
いまだに統治者は自分に決定権や交渉権があると思っていた。
可能な限り有利な条件での妥結が出来ると。
そう考えてる事が、まだ理解が及んで無い証拠だ。
力の差が全てである。
そういう状況を統治者は引き込んでしまった。
金で解決するという手段を放棄する事で。
ヒロトシが支払った金だけを強奪し、捕まえようと思ったのだ。
それが可能であれば、その判断も間違ってはいなかっただろう。
だが、押さえ込めるほどヒロトシは弱くはなかった。
ヒロトシが金で解決していたのは、その方が面倒が少ないからだ。
手間がかからないとも言う。
自分の時間や労力を使うくらいなら、金で解決してしまう。
そう考えていたから、今までは金をおさめて治安機関を黙らせていたのだ。
手間と時間と労力。
全てはここである。
金を支払った方が得なのか。
それとも、自分で手を下した方が利があるのか。
そこを考えて、今までヒロトシは金を支払ってきた。
手間と時間と労力の消費をおさえるために。
それを統治者が放棄した。
ならばもう自分で手間をかけてやっていくしかない。
ヒロトシはそう考えた。
そんなヒロトシと交渉しようとする。
有利な条件を引き出そうとする。
そう考えるのが間違いだ。
そもそも交渉や協議というのは、立場や力量が対等の場合に成り立つ。
それもないのに交渉しようというのがおこがましい。
愚行というしかない。




