6回目 新人面談
場末のこの宿を利用するようになって始まった事がある。
新人の引率だ。
偶にやってくる新人。
それらを連れて迷宮に入り、仕事のやり方を教える。
そんな事をヒロトシは引き受けるようになった。
こんな所にやってくるのは、元手もろくにない新人か。
さもなきゃ、他に行き場がないような連中だ。
自分の境遇が境遇なので、ヒロトシはそういった連中に同情してしまう。
それで、お節介にならない程度に協力するようにしていった。
ついでに味方を増やそうという下心もある。
悪評のおかげで仲間に苦労するヒロトシだ。
出来れば自分側につくような人間も増やしたい。
そうなってくれるかどうかは分からないが。
だが、出来るだけの事をしておくつもりだった。
世の中、何がどう幸いするか分からない。
同じように災いする事も多いが。
だが、打てる手は幾らでも打っておいた方がいい。
実際、こういう事をするようになって良いことも起こるようになった。
面倒も増えたが、得られた成果は大きいと考えていた。
それを見ていた宿の親爺が、人を紹介するようになった。
面倒のような、ありがたいような。
何を考えてそうするようにしたのか。
どうとらえれば良いのか分からない。
だが、ヒロトシはありがたく受ける事にした。
わざわざ声をかける手間が省けるのはありがたい。
そして今。
新人にあれこれ質問をしている。
迷宮の経験はあるのか無いのか。
やり方を誰かに聞いた事はあるかどうか。
初歩的な事だ。
だが、必要な事である。
それらを確認しながら、相手のひととなりを確かめていく。
相手の技量や知識。
そういったものも大事だが。
ヒロトシはそれよりも、人格や性格といった人間性を大事にしている。
これが駄目だとどうしようもない。
こうして面談をする事で、そこを見極めていっている。
ついでに魔力を使って、相手の精神状態なども確かめている。
どんな感情が動いてるのか、嘘を吐いてるかどうかなどを。
こうやって相手の内面を掴んでおかないと、面倒な事になる。
それを避ける為に、調べられる事は調べておく。
もちろん、相手の経験なども。
素人なのか、訳ありでここに流れてきた経験者なのか。
それによってやらせる事も変わる。
ただ、こうしてヒロトシの所にやって来る。
そういった者は、迷宮への同行者がなくて困ってるのがほとんどだ。
それ以外の事で親爺が紹介する事はほとんどない。
自力でどうにか出来る者を、わざわざ紹介はしてこない。
そういった選別もしてくれる。
ありがたいというか、何と言うか。
そんな困ってる人間が今日もやってきたわけだ。
それらに質問をぶつけてみて、人柄も掴んでいく。
そちらの方の問題はない。
少し鈍くさそうではあるが、人間性は良さそうだ。
少なくとも性悪というわけではない。
それだけで十分である。
「それなら、今から行くぞ」
いきなりそう言って、相手が困惑する。
だが、お構いなしに話を進める。
「行かないなら話はここまでだ。
あとは自分でどうにかしろ」
ばっさりといく。
相手を気遣ったりはしない。
強引でも自分の都合に付き合わせる。
相手に合わせると碌な事にならない。
その事を経験としてヒロトシは理解している。
時と場合によるが、自分の都合に引きずり込んだ方が良い。
危険場所に行くときは特に。
下手に自己主張されるよりはその方が楽だ。
特に素人の場合は。
知識も技術もない人間が勝手に動くのが一番危険である。
そうさせない為にも、相手に考える時間を与えない。
酷い話だが、これはこれで手段の一つだ。
そして、言った事をやらせていく。
それだけのイエスマンにしていく。
指示待ち人間、指示通りにしか動かない人間。
それが最初は都合が良い。
それに、うだうだと説明してる時間がもったいない。
どうせ迷宮に行く事になる。
なら、さっさとやってしまった方が早い。
幸い、今回の新人は最低限の道具はもってる。
それなら、準備もほとんどいらない。
「必要な事は迷宮で教える。
道具を持ってこい」
それだけ告げる。
新人は呆気にとられていたが、我を取り戻すとあわてて部屋に戻った。
その間にヒロトシも部屋に戻って道具を持ってくる。
それからヒロトシは新人をつれて迷宮に向かう。
後ろについていく新人は、不安そうな顔をしてついていった。




