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53回目 いつも通りの作業を任せる傍らで

 ヒロトシが車を停めたのは、かなり走ってからだ。

 具体的な場所は分からないが、いつもよりも深い場所。

 それだけで軽く恐怖をおぼえる。



「それじゃ、いつも通りにやってくれ」

 ヒロトシはいつもと変わらない調子だ。

 当たり前のようにミナホに指示を出す。

 その指示に従い、ミナホも動いていく。



 警報と魔除けと地雷の設置。

 それを手早く行っていく。

 ダンジョンの奥でもやる事は変わらない。

 まずは安全圏の確保。

 他の作業はそうしてから入っていく



 今回違うのは、ヒロトシが車の荷台から人を降ろしてる事だ。

 縛り上げて拘束された者達を。

 一目で分かるほど人相が悪い。

 持って生まれた顔の形が、というわけではない。

 それもお世辞にもととのってるとは言い難いのだが。

 それ以上に表情というか、印象が悪い。



 心や生き様が顔や態度に出る。

 人とはそういったものだ。

 善行にしろ悪行にしろ、それが顔や態度に出る。

 持って生まれた顔立ちもそれに合わせたものになる。

 荷台からおろされた連中は、そうしたものが悪かった。



 それらを抱えてヒロトシは奥へと向かう。

 魔力によって能力を増幅してるのだろう、一度に何人も抱えていく。 

 さすがに全員をもっていくのは難しいようだが。

 それでも二回の往復で10人全員をどこかへ連れ去った。



「あの、いったい何を?」

 念のために尋ねてみるミナホ。

「強制連行」

 不穏な言葉を返ってきた。

「まあ、あいつらにはふさわしい対応をしてるだけだから。

 気にしない気にしない」

「はあ……」

 本当に大丈夫なのかと思った。

 だが、ヒロトシがそう言うならそれ以上踏み込むのも躊躇われた。



 そんなミナホにいつもより警戒するよう伝える。

 そうしながら持ってきた連中を担いで奥に。

 そうしてから体を麻痺させて、手足の戒めを解く。

 眠らされていた者達は、それから叩き起こされていく。



「よーし、起きたな」

 人相の悪い連中は動かない。

 顔をヒロトシに向ける事も出来ない。

 体が痺れて動かないのだ。

 それでも起きてるので声は耳に入ってくる。

 ヒロトシもそれを踏まえて声をかけている。



「ここは迷宮だ。

 それもかなり奥まで来てる」

 物騒な事を聞いて、人相の悪い連中は恐怖をおぼえた。

 なんでそんな所にいるのかと。

 構わずヒロトシは喋り続ける。



「ここでお前らには怪物と戦ってもらう。

 盗みに入った罰だ」

 ヒロトシは淡々と喋っていく。

「命がけで働いて稼いだもんを盗もうとした。

 そんなお前らに、労働の難しさを知ってもらう。

 稼ぐのがどれだけ大変なのかってな」

 ヒロトシの目的は、基本的にはこれだった。



 命がけで稼いできたものを盗む。

 そんな連中を許すわけにはいかない。

 だが、簡単に始末するだけでは腹がおさまらない。

 相応の仕返しはしておかないと。

 未然に防がれたとはいえ、標的にされた者達全員はそう思っていた。



「そんなに金が欲しいなら、働けば良いと思うんだ。

 それをしないで盗みに入ろうって魂胆が気にくわない」

 基本的にはこれだ。

 稼ぎたいなら働けば良い。

 仕事は迷宮に幾らでもある。

 わざわざ盗みなんて働く必要が無い。

 それをしないで、悪事に手を染めるという考えが理解出来なかった。



 その方が楽に稼げると考えたのかもしれない。

 確かに悪事とはそういうものだ。

 他人のものを奪う方が、実は楽に稼げるという話も聞く。

 少なくとも悪事を働く者達からすれば、その方が割に合うのだろう。

 だが、それもいささか疑問ではある。



「わざわざ探索者の所を狙ってくるってのが信じられんが。

 お前ら、迷宮でしのぎを削ってる俺達を舐めてるのか?」

 そこが不可解なところだった。

 怪物相手に命がけで戦ってる。

 それが探索者だ。

 そんな連中の所に盗みに入ろうとする。

 正気を疑う行為だ。



「まあ、中にはうちのご近所さんに入り込もうとした奴もいるみたいだけど」

 そういった連中も今回連れてきている。



 捕まったのは場末の宿に侵入しようとした連中だけではない。

 その近所に押し入ろうとした連中も含まれてる。

 これらは近所のよしみでやった事である。

 どうせなら、近隣住人との関係は良好にしておきたい。

 そう考えて、ある程度の警備を請け負っている。



 それで捕まった連中もいる。

 さすがに探索者の所に入るのは危険と考えたのだろう。

 それよりも一般人の方が安全だと思ったのは、まあ頭が働くほうだろう。

 どっちにしろ、悪党である事に変わりはないが。



「そんなお前らには労働に勤しんでもらう」

 ヒロトシはそう宣告していく。

「相手は怪物。

 命がけでがんばらないと死ぬぞ」

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