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48回目 その後の彼ら

 そして、その頃。

 ヒロトシと共に行動していた新人達だが。

 膨大な金を手に入れて、迷宮近くの宿に入っていった。

 高給とまではいかないが、金が無くて宿泊できなかったところだ。

 そこに入り、初めての贅沢とばかりに泊まれる高い部屋に入った。

 この世界では贅沢と言える個室はさすがに無理だったが。

 少人数用のそこそこととのった部屋に入れた。



 そして装備に金をかけて更新。

 それらを身につけて迷宮に。

 ヒロトシから教わったやり方を使って荒稼ぎを始めた。

 疑問や不満はあったが、それでも効果のある方法だ。

 それらを新人達は新人達なりに使っていった。



 結果として彼らもそれなりに成功していく。

 ただ、時間の関係でヒロトシが教えられない事もあった。

 それらが彼らの上げる収益を少しだけ下げてしまっていた。

 また、ヒロトシのやり方に不満もあった。

 最初は教えられた通りにやっていったが。

 そのうち、ああでもない、こうでもないと言い始めていく。

 そして、やり方を少しずつ自分達の好みに沿って変えていった。



 大事なことだが、好みに沿って変えたのだ。

 効果を考えて変えたのではない。

 それでも新人達の好みにはあっていたので、彼らがストレスをかかえる事はなくなった。

 それはそれで良い結果ではあるだろう。

 しかし、それと引き替えに、知らず知らず捨てていったものがある。

 安全性だ。



 ヒロトシが教えたやり方。

 その中で、どうしても効果が分からない事。

 それらを新人達は排除していった。

 手間や面倒が増えるわりに意味がないとして。



 しかし、それは危機が迫った時に効果を発揮する。

 可能な限り早く危機を察知して対応出来るように。

 損害が出ても可能な限り抑えるためのものである。

 そんなもの、危機的な状況がこない限り確かめようがない。

 だから彼らは、ヒロトシがやらしていた事の意味を知る事が出来なかった。



 それでも彼らは迷宮の比較的深いところで活動をし続けた。

 そこまで危険な事にならなかったというのも大きい。

 基本的に出て来る怪物はそう強くない。

 それもあって、危機感を抱く事はほとんどなかった。



 だが、問題は確実に発生していた。

 やり方を不用意に変えた事で、効率が悪くなった。

 消費する魔力が増えていったのだ。

 その為、利益がその分下がった。



 そうして下がった利益を補うために、消耗を削っていった。

 もっとも削ったのは、魔力の消耗だ。

 それは、警報や魔除けの設置にまずあらわれた。

 ヒロトシのやり方だと、これらの設置が多すぎる。

 新人達はそう判断した。

 実際、たいていの場合それでも問題はなかった。



 続いて、戦闘に挑む際に使う、魔力による強化など。

 これらを幾らか省くようになった。

 最弱の怪物を相手にするには、あまりにも消費が激しい。

 強化も不要なほど強くかけている。

 彼らにはそう思えた。

 だから、強化を幾分抑えめにした。



 魔力の防護幕も減らした。

 外付けのHPというべき部分だ。

 その分、命の危険性は上がるが、大きな問題になるほどではない。

 怪物の攻撃を受ける事はあっても、魔力の防護が削られる事はない。

 稀にその防護を上回る攻撃を受ける事もあるが。

 それで魔力の防護幕を突破されても、多少血が出る程度である。

 そんな大きな怪我にはならない。

 魔力で治療すれば事なきを得る。



 そして、防護に魔力を割くよりも、治療の方が消費が少ない。

 そう考えて彼らは防護に回す魔力を減らした。



 そうして魔力の消費を減らしていった。

 その結果、安全性を減らす事にもなった。



 更に、戦線の投入する人数を確保するために、全員での戦闘を行うようにした。

 伝令や通信、予備の戦力を削って。

 おかげで、先頭に出られる人間が増えて、稼ぎが上がった。



 新人達は、やはりヒロトシのやり方は間違っていたと感じた。

 通信要員などは無駄だったと。

 実際、無駄だと思っても仕方がない。

 最弱の怪物だけを相手にしてるなら、そうそう必要になる事もないのだから。



 だが、ここは迷宮である。

 常に弱い怪物だけを相手にしてるわけではない。

 滅多に出てこないが、強力な個体も存在する。

 それは、迷宮の奥であればあるほど、出現する可能性が高い。



 新人達が活動していたのは、そういう地域だ。

 一応、乗合馬車などの通過地点の中ではある。

 さすがに終点にいくほど新人達も無謀ではない。

 だが、新米が乗り込んで良いような場所でもない。

 本来なら、彼ら程度の熟練度で足を踏み込むのは危険なところだ。

 時に、強力な怪物が出て来る場所なのだから。



 そんなところで新人達は活動していた。

 少しでも多くの怪物を倒して稼ぎを確保するために。

 消費する魔力を考えれば、それなりの数の怪物を倒さねばならない。

 その為に彼らは、自分達の力量を越えた場所に踏み込んでいた。



 迷宮はそんな彼らに容赦はしない。

 どんな者達にも等しく対応をしていく。

 強弱によって相手を変えるような差別は一切ない。



 その日、彼らは強力な怪物に出会った。

 その接近に気付く事も出来ずに。



 まず、警報や魔除けなどの数を減らしていた。

 そのせいで、接近に気付く事が出来なかった。

 発信してるのは気付いたのだが、いつもの弱い怪物だと思った。

 それに、魔除けで動きを阻めるとも思っていた。



 また、地雷なども設置してなかった。

 通常より多めに魔力を使うので、使わないようにしていたのだ。

 だから事前に相手に損害を与える事も出来なかった。



 更に、そういった警報などの情報を受け取る通信担当者がいない。

 それが異常の受信を遅らせた。

 何より、それを全員に伝える者がいなかった。

 全員が戦闘中でとても対応する余裕が無かった。

 そのせいで、全員バラバラの場所に散らばったままという事になった。



 そして、強力な怪物は少人数で戦ってた者達に襲いかかる。

 怪物からすれば、各個撃破が出来る状態だ。

 簡単に新人探索者達を蹴散らしていける。



 その時点で気づければ良かったのだろうが。

 それすらも難しかった。

 お互いにそれなりに離れた所で戦っていたのだ。

 気づけるわけがない。



 伝声魔術は一応使っていたが。

 戦闘中だと声に気づく事も出来ない。

 仮に気づいたとしても、即座に駆けつける事も出来ない。

 ただ、悲鳴が他の場所に伝わるだけ。

 その悲鳴すらも、なんだこれはと思われて終わった。

 特に危機感を抱かれる事もなく。



 そうして強力な怪物の襲撃に気付く事もなく。

 別々に行動していた彼らは、分散した状態で次々に撃破されていった。

 慌てて対応しようとした者達もいるが。

 能力強化などが間に合う事もなく、ほぼ一撃で倒されていった。

 それらを言われた水準に高めておけば、もう少し粘ったかもしれないが。



 仮に、接近に気付いて何とか魔力を使ったとしてもだ。

 防御や能力の上昇に使う分を低く抑えてしまった。

 大量に使うのがもったいないと考えて。

 相手の強さがどれくらいかも分からず、最低限必要な魔力も知らないくせに。

 その為、必要なだけの防御や能力を得る事も出来ずに撃破されていった。

 使った魔力は、ただ無駄になっただけである。



 そもそも、強力な怪物への対処方法など彼らは知らない。

 そこまで教えてもらったわけではない。

 なので、まともな対応など出来るわけもない。



 もし、先輩探索者達と行動を共にしていたなら、教わる機会もあっただろうが。

 彼らはその後も彼らだけで行動をしていた。

 その為、効果的な対策を知る機会はなかった。

 情報を集める努力もしてなかったし、それが必要だという事も知らなかった。



 新人達はこうして倒れていった。

 その壊滅を誰に知られることもなく。

 潰えていく探索者の多くは、こういった末路を辿る。

 彼らの最後も、そう珍しくはないよくある出来事の一つでしかない。



 それは彼らがヒロトシ達と別れて三ヶ月ほど経った頃の出来事だった。

 その頃には、ヒロトシもミナホも場末の宿の親爺も彼らの事を忘れていた。

 町の多くの者達も。

 出身地の者達が、時折「無事でいるかな」と気にかける程度である。



 どこまでも彼らは、その他大勢の一人でしかなく。

 よくある、たいして珍しくもない最後を遂げた。

 ただそれだけの事だった。

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