47回目 それが彼らの選んだ道
「いいんですか?」
「なにが?」
尋ねるミナホに聞き返すヒロトシ。
「だって、一度一緒にいって、それで終わりって……」
「そういうもんだ」
ヒロトシは肩をすくめる。
だが、言葉や気持ちをそれ以上あらわしはしなかった。
「そういうもんだ、探索者ってのは」
長期的にやっていく仲間同士ならともかく。
一時的に組んでるだけの者達は、仕事が終わればそこでお別れだ。
その後も顔を合わせる機会はあるかもしれないが。
基本的に一度仕事が終わればそれまでという事が多い。
「あいつらはそのつもりだったんだろう」
それをヒロトシは止めたり咎めたりするつもりはない。
「もう少し色々身につけてもらいたいけど」
その為に、もう少し一緒に行動してもらいたかったとは思う。
だが、そのつもりがないなら止めたりはしない。
「そういうもんですか」
「そういうんもだよ」
まだ納得がいかないミナホに、ヒロトシは声を重ねる。
「それにさ」
「はい」
「あいつらがどうなろうと……俺には関係ないだろ?」
「…………まあ、そうですけど」
そう、新人の彼らがどうなろうとヒロトシには関係がない。
この先彼らがどうなろうと。
成功しようと、失敗しようと。
それで何が変わるわけではない。
「まあ、奴らが上手くやるならそれで良し。
失敗しても損をするわけじゃない。
どっちでもいいよ、どうなろうと」
その言葉にミナホは幾分寒気をおぼえた。
割り切った冷淡さというか。
酷薄とすら言える態度に。
しかし、それが悪いというわけでもない。
それは確かだ。
ヒロトシとの付き合いを終えたのは新人達だし。
それが悪いという事は無いのだ。
彼らは彼らの意思でそうした。
それをヒロトシは尊重した。
その結果こうなってるのだから。
「まあ、こんな所に突っ立っててもしょうがないし。
帰ろうぜ」
「ええ、まあ、それはそうですけど」
歩き出すヒロトシ。
ミナホもその後ろについて歩いていく。
そのまま暫くは黙ったまま歩いていく。
ミナホは、帰ろうという言葉が体よく話を断ち切る口実だと思った。
なので言葉を続けるのを躊躇った。
ヒロトシも特にこれ以上話すつもりもない。
何を言っても何かが変わるわけでもないのだ。
それに、言うべき事は言ったつもりでいる。
これ以上付け足すべき言葉が見つからない。
そのまま二人は場末の宿へと向かい。
そのまま中に入った。
途中、特に語る事もなく。
それでも入り口をくぐった時に、
「他の奴らが帰ってくるまでまだ時間もある。
その間は、迷宮の中でもう少し頑張るか?」
ヒロトシは声をかけた。
それにミナホは、
「はい、お願いします」
と答える。
部屋に戻るヒロトシは、そんなミナホに背中を向けたまま手を振った。
その背中にミナホは、見てないのは分かっていても頭を下げた。
その後の次の日。
再び迷宮入りしたヒロトシとミナホは、あらためて奥地での作業をこなしていった。
ヒロトシは教え切れてない細かい事を伝えていき。
ミナホは、それらを出来るだけ身につけようと励んだ。
ヒロトシも出来る限りは伝えようと努力した。
全てを教えるには時間が足りなかったが。
それに、強力な怪物がいなければ意味がない事もある。
現状では教えきれない事も多々あった。
それらについては、知識として伝えはした。
ただ、実際にやってみてないので、伝えきれない事も出て来る。
「それは機会があったら自分で試してみてくれ」
ヒロトシはそう言うしかなかった。
ミナホもそれは仕方ないと諦めた。
それでも伝えた事は多い。
それを身につけようと努力したことで、ミナホの能力も上がっていった。
そんなミナホを、場末の宿に帰ってきた者達が受け入れていく。
ミナホは新たな探索者集団の中での活動を始めていった。
その後は問題無くやっていってるらしい。
というより、評価は高い。
「あいかわらず良い新人をありがとうございます」
探索者達のリーダーは、そう言ってヒロトシに礼を言った。




