44回目 大人数ゆえの割り振り方
人数が多い分、やり方をおぼえると作業が早くなる。
警報や魔除けの設置がすぐに終わる。
それから、地雷型の罠も。
それらによって安全圏を確保し、それから怪物退治が始まる。
これもいつも通りである。
やり方を教えて、群がる最弱の昆虫型を倒していく。
まずはヒロトシとミナホでやり方を見せて。
それから新人達にやらせていく。
とはいえ、一気に全員でやっても効率が悪すぎる。
とりあえず二人一組でやらせていった。
魔力の援護があれば、それで十分だからだ。
そうしてやらせていったところで、あらためて新人だけに行動をさせていく。
そして、あちこちに配置させていく。
一カ所に固まっても意味がない。
適度に分散させる必要がある。
「それで、こういう時に必要になるのがこれだ」
そう言ってヒロトシは、ミナホと新人達のリーダーに説明をしていく。
彼らは今、散らばった者達から等距離になるような位置にいる。
いつでもどこかに出向けるように。
何より、連絡がとりやすいように。
そんな所でヒロトシがやろうとしてるのは、通信の取り方だ。
「手っ取り早いのが、伝声の魔術。
これで声を届けたり、向こうからの声が届くようにしておく」
それ自体は空気を動かす、つまり風を使った魔術の一形態だ。
声の通りを良くして、離れた所との通話を可能とする。
条件として、お互いの居場所が隔てられてない事。
無理なく届く距離が数百メートルである事。
これが必須になる。
この魔術、基本的に空気の流れで声を届ける。
なので、相手が部屋の中にいたり、間が壁で隔てられたりしてたら声は届かない。
また、空気の流れを利用するので、どうしても距離に限界が出てしまう。
通信器具の発達してないこの世界では、これでもかなり便利なのだが。
使い所を考えねばならない。
それでも、比較的近い所で通信をとりあう場合は便利だ。
特に迷宮のように、壁で互いの姿が見えない所だと。
こうした通信網を作っておく事で、伝令を使うより早く状況を把握出来る。
こういうやり方によって、迷宮内での分散行動が可能となる。
多方面への警戒も兼ねる事が出来る。
どこかで何かがあったら、すぐに連絡が出来るように。
その為に、伝声の魔術はかけっぱなしにしておく。
魔力を連続して消耗する事になるが、安全にはかえられない。
それに、消耗した分はすぐに補充が出来る。
そして、即座に応援にいける者を置いておく。
戦闘には直接参加しないが、何か会った場合に即座に増援を出せるように。
こうした対応が何かあった場合に大きく役に立つ。
そして、通信担当として、必ず一人を司令部に置いておく。
もちろん、一人では何かあった場合に困るので、予備をもう一人おく。
人数が少ないとこうしたものは設置できないが、今回はそこそこの人数がいる。
なにせ、新人達だけで10人ほど。
そこにヒロトシとミナホが加わる。
これだけいると、連絡の取り合いがどうしても必要になる。
でないと、各自がバラバラに動きすぎてしまう。
たった12人ではある。
だが、それでもまとまるには多すぎる。
それをまとめるために、効率よく動けるようにする。
そうした工夫が必要になる。
「まあ、今は意味が分からんだろうな」
やり方を教えて、無理矢理にでもやらせてる。
それでも意味は伝わらない。
どれほど便利なのかも。
ヒロトシはそれを覚悟している。
「けど、そのうち分かる時が来るかもしれない」
それだけを期待して、やり方を教えていく。
実際に体を動かさせて。
ただ、一つ心配がある。
こういう事の必要さは、何かしら失敗した時でないと気付かないこともある。
上手くいってる時と、そうでない時の落差。
それが分からなければ、ありがたみを感じる事もない。
そしてそれが、壊滅的な状況になったときという事もありえる。
せめてそうならないように願いはするが。
こればかりは運である。
ヒロトシにはどうしようもない。
だが、それでも教える事は教えていく。
それを活かせるかどうかは分からないが。
何も知らないでいるよりはマシな結果になると信じて。
もっとも、そう上手くはいかないだろうとも思っていた。
人間、そうそう新しいやり方を受け入れられない。
よほどの事がない限りは。
ここ最近の二人、トシキとミナホは素直に言う事を聞いたが。
(今回はどうだろう)
あまりヒロトシは大きな期待はしなかった。
もっともそれは今に始まった事ではない。
これまでもずっとそうだった。
教えた事が活かされない事もある。
意味を理解されない事もある。
それはそれで仕方ないと。




