43回目 本来、新人からすればそこは恐怖でしかない
緊張する新人達。
食い詰める直前で行き場もなく。
どうにかしようとして言われるがままについてきて。
その先にあったのが、怪物蠢く迷宮の奥地。
彼らは今、ここにいる事に絶望と後悔を深めている。
さすがに乗り合い馬車が奥へと向かっていく中で、不安が募った。
逃げようとした者も何人かいる。
だが、それを見計らったようにヒロトシが教えてくれた。
「ここから帰るとなると、怪物共の中をつっきるぞ」
それで脱走を諦めた。
実際、乗合馬車でかなり進んだ時点で、素人が戻るのは難しくなっている。
出て来る怪物は最弱のもの。
数も奥地ほど出てこない。
それでも、素人に毛の生えた程度の新人達には荷が重い。
そんな彼らは言われるがままに乗合馬車に乗り。
終点までやってくるしかなかった。
そこで彼らも諦める。
ここから変える事は不可能だと。
死ぬしかないのだと。
そんな彼らに、ヒロトシはいつも調子で声をかけていく。
明るく脳天気と思えるような態度で。
実際、ヒロトシにとってこのあたりはまだ安全地帯だ。
油断は出来ないが、気を張るような場所じゃない。
「行くぞー」
軽い声が新人達を促していく。
渋々とそれに新人達は従っていく。
暗い雰囲気が余計に暗くなっている。
そのことをミナホは感じていた。
気持ちは分かるのだが、そこまで落ち込まなくてもいいだろうと思う。
(確かに、かなり深いところだけど)
そこまで不安を抱くほどか、と思ってしまう。
しかし、この場合は新人達の方が普通なのだ。
実力と見合わない場所まで来てる。
それで緊張しない方がおかしい。
むしろ、落ち着いてるミナホの方が異常だ。
前に来た事があるにしてもだ。
そもそも、最初に来たときもそれほど緊張してなかった。
その時点で既におかしい。
普通は緊張してまともに動けないものだ。
ただそれには多少の理由がある。
ミナホもその時は切羽詰まっていた。
後先を考えられる状態ではなかった。
加えて、周りが見えるようになって浮かれていた。
この二つの状態が合わさって、気分が高揚していた。
その為、恐怖を考える余裕がなかった。
理性がぶっ飛んでいたと言える。
一方で新人達はそうではない。
落ち込んで先々の不安を抱いてはいた。
しかし、まだ冷静に先の事を考えていた。
妙案は浮かばなかったが、理性が働くだけの冷静さがあったと言える。
そんな状態で迷宮の奥までやってきたのだ。
その理性が恐怖をおぼえるのだ
彼らからすれば、奥地など恐怖しかおぼえない。
ここでどうやって生き残るのか?
そんな事が出来るのか?
そんな疑問しか浮かんでこない。
それでも来てしまったのだからやるしかない。
何をすればいいのかは分からないが。
とにかく、やれる事をやるつもりでいる。
そんな彼らにヒロトシは、やるべき事を伝えていく。
「とりあえずこの魔石で、警報とかを魔除けを作ってもらう。
それをとにかくばらまけ」
最初の仕事が与えられる。
新人達は黙々とそれを実行していった。
「ミナホはあっちの方を頼む」
既にやり方を教えてるミナホには、指示を手早く出すだけに留める。
それでも十分だった。
こうして迷宮奥での活動が始まっていく。
今度は今までよりも大人数で。




