41回目 時に面倒はまとめてやって来る
ミナホと当面は行動を共にする事を決めた翌日。
その日は場末の宿は、常になく騒々しかった。
まとまった客が押し寄せたのだ。
辺鄙なこの宿には珍しい事である。
ただ、その姿や雰囲気を見てれば何となく分かる。
食い詰める寸前なのだろうと。
全員、顔色が悪い。
健康状態や栄養状態は悪くはなさそうだが。
未来への展望というのを失った者が持つ絶望感が漂っている。
それに若い。
いずれも十代の真ん中ほどに見える。
成人して間も無いといったところだろう。
それを率いてるらしい、親爺と話をしてるのはもう少し年かさだが。
それでも十代の後半くらいに見えた。
部屋を出て来たヒロトシは、それを見て嫌な予感がした。
こういう時にたいてい親爺から無茶を振られる。
その予想通り、親爺はヒロトシに目を向け、
「あとはあいつがやる」
そんな事を若い集団のリーダー格に告げた。
おいおい、とヒロトシは胸の中で突っ込んだ。
仕方なくそいつらを相手にしていく。
本来なら、ミナホと共に迷宮へと向かってるはずだったのが。
思わぬ足止めをくらった。
だが、見捨てるのもしのびない。
やむなく広間で相手をする事にした。
みすぼらしい雰囲気を漂わせてる若い連中。
そいつらは本当にみすぼらしい状態だった。
全員、出身は違うがあちこちの村からやってきた者達だ。
目的はもちろん、食い扶持の確保。
その為に迷宮を目指した。
しかし、既にある探索者の集団には入れず。
わずかな路銀も底を突こうとしていた。
そんな中で、同じ境遇の者達と組んで迷宮に挑んだのだが。
当然ながら上手くいくはずもない。
ろくにやり方も知らないのだから当然だ。
それでも、何とか無一文は回避していたのだが。
ついに手持ちの金も底を突いた。
実際にはまだ完全に無くなったわけではない。
しかし、今まで泊まっていた宿の宿泊費は払えなくなった。
なので、そこを追い出され、宿泊費の安いこの宿へと流れてきた。
良くある話だ。
この宿にいる連中も似たような経緯を辿ってきた者もいる。
ヒロトシとしては珍しくも何ともない。
こういう連中を押しつけられるのもだ。
「分かった分かった」
事情を聞いて、あと魔力で一人一人の考えも読み取ったヒロトシはため息を吐く。
「やる気があるならついてこい。
これから迷宮に行くから」
一応、機会を与えてやる。
それを活かせるかどうかは相手次第だが。
「飯の心配はするな。
中に入ればどうとでもない」
その言葉に最初は不安を抱いた若い連中だが。
他に道もない。
頼れる人間もいない。
駄目でもともととヒロトシについていく事にした。
本当に上手くいくかどうかは分からなかったが。
しかし、彼らも開き直っていた。
これで駄目なら、もう何をしたって後がない。
ヒロトシについていって失敗しても。
ヒロトシの誘いを断っても。
どのみち稼ぎなんぞ得られないのだ。
だったら、まだしも可能性のありそうなほうに賭けた。
ヒロトシの誘いを断ったら、今まで通りになる。
ろくに稼げず、先細りの毎日が続く。
そうなったら、宿泊費の安いこの宿にすら泊まれなくなる。
だが、もしヒロトシについていって上手くいったら。
今の状況はどうにかなるかもしれない。
少なくとも、ヒロトシの存在は今までになかった要素だ。
新たな可能性の出現。
それに若い連中は賭ける事にした。
やぶれかぶれになってると言える。
効果があるかどうか分からない事に乗っかろうとしてるのだから
しかし、この状況で彼らに選択肢はろくにない。
このまま今まで通りを続けて潰れていくか。
効果があるかどうか分からない事に賭けて潰れていくか。
あるいは万が一の幸運をつかんで上手くやっていくか。
そのどれかしかない。
そんな中で、もっともまともなのは、あるかどうか分からない可能性に賭ける事だった。
もういっそ、哀れというしかない。
しかし、彼らにはそれしかない。
それしかないから、それを選ぶ。
そんな彼らを非難したり否定する事が出来る者はいないだろう。
よりよい選択肢を与えるのでもなければ。
そうして彼らは、人生の賭けに出る事になった。
ヒロトシに続いて迷宮へ。
生気のない顔をしながら。




