35回目 一時的な補強ではなく、根本的な解決に向けて
「凄い凄い!」
同じ声を連発するミナホ。
それをヒロトシは微笑ましく見つめる。
そんなヒロトシにミナホは、
「でも、どうして?」
と尋ねる。
それもまた曖昧な問いかけだ。
だが、ヒロトシは思った事を口にしていく。
「目が悪かったんだよ」
そこから始まって、理由などを説明していく。
あくまでヒロトシの予想ではあるが。
それでもミナホには十分だったようだ。
「でも、それなら不思議なんですけど」
ミナホには新たな疑問が浮かんできた。
「前にいた探索隊で、体に異常がないか調べたんです。
魔術を使って。
その時には異常は無かったんですが」
「なるほどね」
その理由についても思い当たる事がある。
「たぶんだけど、病気や怪我のつもりで探したからだろうな」
探知系統の魔術である識別や鑑定。
医療的な診断もその仲間である。
この力を使って、体の異常を探る。
問題のある箇所を発見する。
それは下手すると現代日本よりも優れた部分であった。
だが、そういった方法で調べたから発見出来なかった可能性もある。
「怪我や病気、体の機能障害。
そこまで酷くないから、見逃したのかもしれない」
ミナホの問題は、あくまで視力だ。
確かに支障は出てるが、生活が出来ないほどではない。
体の一部を失ったり、全く動いてないというわけではない。
怪我や病気などを調べる診断では調べられないはずだ。
今回ヒロトシが行ったのはそうではない。
体の中で、能力が低下してる部分があるかどうか。
怪我や病気というわけではない。
だから発見が出来たのかもしれない。
「あくまで予想だけど」
それらは全部ヒロトシの考えでしかない。
正解なのかどうかは分からない。
だが、効果は出ている。
ミナホは確かに今まで以上に周りが見えるようになってる。
そのおかげで動きが変わった。
根本的な解決にはなってないかもしれない。
だが、今はそれで十分である。
「けど、魔力が切れたらまた元に戻る。
出来るだけ魔力は確保しておけ」
「はい!」
元気よくミナホは頷いた。
それから二人は宿を出た。
そのまま迷宮へと向かう。
ミナホはその途中、周りを見渡し続けた。
「こんな風になってたんですね」
初めて見るような感想を口にしていく。
実際、視力が良くなってから見る世界は、初めて訪れた場所に等しいのだろう。
そんなミナホを時折振り返りながらヒロトシは歩いていく。
視力の回復、あるいは上昇。
それは一時的なものだ。
長く続くものではない。
その為、まともに周りが見える状態を続けるには、魔力を常に携帯してなければならない。
その魔力を確保するには、どうしたって迷宮で活躍する必要がある。
結局ミナホは、迷宮から逃れられそうもない。
ただ、希望もある。
ミナホの視力の低下は、目と関わりのある部分の機能が低下していた事で起こってる。
それらを回復させる事が出来れば、まともに動く状態に出来れば、魔力を使わなくても済む。
魔力を使っての治療と同じだ。
一度傷や怪我を元の状態に戻せば、魔力を使わなくても体は元通りになる。
同じように、視力に関わる部分の機能も治療・回復出来るかもしれない。
そのことをミナホにも伝えていく。
「だから、とってきた魔力は自分の治療にもつかっていけ。
そうすりゃ、魔力無しでも周りが見えるようになるかもしれない」
「なるほど……」
その言葉にミナホは希望を見いだしたようだった。
一時的なものではなく、ずっと周りが見えるようになる。
視界がひろがった事に感動をおぼえるミナホにとって、それは目指す目標になりえた。
「頑張ります、わたし」
「ああ、頑張ってみろ」
ヒロトシも応援する。
その応援には、多少の下心が籠もっていた。
視力の補強、それによって周りが見えるようになったミナホ。
その瞬間に、彼女の顔立ちが変わった。
顔全体の造りに大きな変化はない。
ただ、今まで周囲をにらむように見ていた目つき。
それが無くなった。
視力が回復し、無理して周りを見る必要がなくなったからだろう。
そうなった瞬間に、顔立ちも変わった。
目つきから険がとれた。
すると、一気に印象が変わった。
ようするに、可愛くなった。
そのことがヒロトシに感動を与えていく。
(生きてて本当に良かった)
そんな事を思えるほどには。




