34回目 視力が悪い、ただそれだけで
「凄い、凄いです。
見えます、周りがくっきりと」
「だろうね」
それもそのはずだ。
ヒロトシが行ったのは、視力の調整。
特に、目とその周りの治療。
視力が落ちてる原因を可能な限り取り除いたのだ。
周りが見えるようになってるのも当然である。
ヒロトシが気になっていたのはそこだった。
最初に見た時に感じた目つきの悪さ。
何故そうなってるのかというのがまず気になった。
生まれつきの顔立ちなのかもしれないが。
もしかしたら、他に原因があるのかもと思った。
識別・鑑定の魔術を使って、それがはっきりとした。
その結果、視力が通常より低いのが分かった。
ただ、日常生活に支障がそれほど出ない程度だ。
だから今までそれほど大きな問題も起こさずに生活は出来た。
それでも、遠くが見えない事で、普通の視力を持つ者より損はしていただろう。
視力の低下というのは、存外大きな問題だ。
生活に支障がない程度であっても、落ちてるとかなりの支障になる。
ちょっと離れた、距離にして2メートルから3メートルのところにある文字が読めない。
ものがはっきり見えないから、そこに何があるのか分からない。
分からないから反応がどうしても遅れる。
そういった事が発生する。
ミナホはそういう状態なのではないかと思った。
見えないから反応が遅れる。
どうしても一歩行動が遅れる。
それもそのはずだ。
頭や体はまともに動いても、周囲の状況を正しく把握出来ないのだ。
行動が遅れるのは当然である。
外部の情報を正しく把握出来ない。
だから何をすればいいのか分からない。
事を理解するには、相手に近づかねばならない。
だから行動がどうしても遅れる。
何の事は無い、見るという事が正しく行えてない。
その結果、思考や行動が遅れていた。
それだけの事なのだ。
現代日本などならば、メガネで補強も出来ただろう。
だが、この世界ではそんなものはない。
ガラスがまだ高級品で、レンズを作るのが難しい。
その為、メガネなども存在しない。
あるとしても、手に入れる事が出来るのは、裕福な者に限られるだろう。
一般人が手に入れる可能性は低い。
幸い、魔力があるので、それで修正をかける事は出来る。
それも、治療の応用で、身体機能などを調整していく。
そうする事で、機能してない部分を動かした。
おかげでミナホは一般的な視力を手に入れる事が出来た。
そうなると動きが変わってくる。
以前よりも素早く動いていく。
見えなかったものが見えてるからだろう。
だから、何がどこにあるのか確かめるために時間がかかった。
今は正確にものが見るから、瞬時に判断が出来る。
考えてから行動するまでの時間を短縮出来る。
いわゆる鈍くささがそれで消えた。
生来の身体能力を超える事はないだろう。
しかし、本来の能力を発揮できる。
少なくともミナホはその可能性を手に入れた。
それだけでも彼女にとっては、大きな事である。




