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29回目 新人時代の終わり

 場末の宿。

 迷宮からも都市の出入り口からも遠い。

 その為利用者は限られてる。

 だが、何故か潰れず今も続いている。

 そんな不思議な場所である。



 そこに迷宮探索者の一団が戻ってきた。

 10人編成の、ごくごく一般的な人数だ。

 それらは入り口からすぐに入れる広間に向かい、口々に注文をしていく。



「サンドイッチとスープ」

「サンドイッチとサラダとスープ」

「米と蒸し肉、あと味噌汁」

「米と味噌汁、漬け物も」

 和洋様々な料理が求められる。

 いずれもヒロトシがもたらしたものだ。



 それらを平らげたところで、親爺が探索者達に声をかけていく。

 紹介したいのがいると。

 その隣には、部屋から呼ばれた新人がいた。



「なるほど、真榊さんの」

 その名前を聞いて納得したのか、彼らはそれ以上説明を聞くことはなかった。

「それで、どうする。

 俺達と一緒に行くか?」

 呆気ないくらい話は早くまとまる。

 あまりの早さに新人は呆気にとられた。



「いいんですか、そんな簡単に決めて」

 逆に心配ななってしまう。

 そんな新人に、

「大丈夫だろ、あの人が面倒をみたなら」

と探索者達のリーダーは笑う。

「あの人からやり方を習った奴で、外れはいなかった。

 お前さんがその第一号になるかもしれんが」

「はあ…………」

 理由を聞いて何ともいえなくなる。

 そんな単純な事でいいのかと。



「で、どうなんだ。

 俺らでいいなら一緒に行くか?」

 そう言われて新人は少し考えた。

 こんな簡単に決めて良いのかと。

 しかし、誘ってくれるのはありがたい。

 やり方を教わったとはいえ、一人で迷宮に行くのは不安である。

「…………お願いします」

「よし!」

 頭を下げる新人に、探索者のリーダーは大きく頷いた。



「おーい、お前ら!」

 その場にいる仲間に声をかける。

「こいつが新しく俺達と一緒に行く事になる。

 よろしくな」

「おう!」

「はいよー」

「おーっす」

 返事がそこかしこからあがる。

 それを聞いて新人も立ち上がり、

「よろしくお願いします!」

と頭を下げた。



「それじゃあ、新人」

 頭を下げてそのままの新人にリーダーが声をかける。

「まずは名前を頼む」

 言われて気付く。

 まだ名前すら言ってない事に。

 慌てて頭を上げて、

「木場トシキです!」

 名乗りをあげた。



 この日、新人の木場トシキは場末の宿の新たな住人になった。

 同時にそれは、新人から半人前に踏み出した探索者の、新たな出発の日にもなった。

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