17回目 24時間、戦います 3
それはもう戦闘と呼ぶのが躊躇われた。
むしろ作業と言った方が近いようなものである。
それくらい一方的に怪物退治は行われていた。
戦闘が終われば、魔石を回収していく。
それから怪物集めの魔術を設置。
その場から一旦離れる。
いくら招集をかけてるとはいえ、すぐに集まるわけではない。
その間は別の場所に移動して怪物を集める。
そして怪物が集まりそうな場所で戦闘。
戦闘が終われば魔石を回収。
また怪物集めの魔術を設置して移動。
これを何度か繰り返す。
こうして数カ所ほど戦闘する場所を決めていく。
そこを順繰りに巡って怪物を倒す。
倒して魔石を回収してまた移動。
もう戦闘ではなく、作業と言って差し支えないだろう。
圧倒的な戦力差があるから出来る事だ。
そうでなければ怪物に倒されて終わっている。
その戦闘力差を得る為に、魔力を大量に消費している。
本来ならば無駄遣いとなるほどに。
だが、得られる魔力が多いので、消費を相殺出来る。
それどころか、収支を見れば黒字になっている。
人数の少なさが幸いしていた。
通常の探索者編成であったら、こうはいかないだろう。
最も多いと言われてる5人から10人の探索者集団。
それらが全員同じだけの魔力を使ったら、収支はマイナスになる。
だが、ヒロトシ達は二人。
それが戦闘力差が出るほどの魔力を使っても、そこまでの消耗にはならない。
怪物の数が多ければ十分に元を取れる。
消費した魔力を見ればそれが明らかになる。
魔力も今は数値化して計る事が出来るようになっている。
魔力を使って計測する事も可能だ。
その魔力を、一回の戦闘で今は一人50点ほど使っている。
二人分で100点が一回の戦闘での消耗分だ。
人数が多くなれば、消費はもっと大きくなる。
単純に、同じだけの魔力を人数分消費していったとしよう。
3人で150点。
4人で200点になる。
では、怪物を倒すとどうなるかだが。
最弱の昆虫型の怪物だけに、一体あたりの魔力はそれほどでもない。
一体あたり5点分の魔力になるくらいだ。
それを一回の戦闘で、だいたい50体くらいは倒してる。
魔力にすると、250点は手に入れる事になる。
二人で戦えば一回の戦闘で、差し引き150点は手に入る。
だが、人数が3人4人と増えれば手元に残る分も減る。
単純計算で、5人を超えると利益が消えて赤字になる。
それならそれでやりようはあるが。
大人数による利点があまり出て来なくなる。
これが少人数による利点だ。
人が少ない分、安全性は下がる。
誰か一人やられただけで、かなりの危機に陥る。
だが、一人が得られる利益もおおきい。
今のところ、一回の戦闘で手に入る魔力が150点。
これを一時間におおむね3回ほど行える。
怪物が集まる場所を巡る移動時間。
それに戦闘にかかる時間。
これらを考えると、どうしてもこれくらいの回数になる。
ただし、疲労を魔力で解消出来るので活動時間は多く取れる。
それこそ、一日24時間全部を使う事も出来る。
そうなれば、かなりの利益を積み上げる事が出来る。
もっとも同じ場所で戦い続けてると、その周囲から一時的に怪物が消える。
いずれ他の場所から流れ込んで来たりはするのだが。
それでも、効率が落ちる瞬間というのは必ず出て来る。
それも考慮して、狩り場の移動が必要になる。
それがまた、狩りの効率を落とす事になる。
しかし、それでも戦い続ける事で得られる利益は大きい。
それこそ寝食を忘れるほどに。
「次にいくぞ、新人」
「はい!」
ヒロトシの声に新人も応じていく。
疲労もなく、無理なく戦い続けられる。
その事が新人の気を大きくしていった。
今の彼は、戦闘への不安よりも、手に入る利益に目が向いている。
そんな二人は、それから五日ほど、ただひたすら戦闘を繰り返していった。
利益を積み上げていくために。
無理なく働く事が出来て、応じた利益が得られる。
そうであるならば、人はどこまでも貪欲になれる。
例えそれが、ブラックと呼ばれる労働形態だったとしても。
その事をヒロトシと新人の二人はこれ以上なく体現していた。
なお、この時の収支であるが。
一回の戦闘で手に入る魔石が、およそ30個。
一個あたり魔力が5点。
そのための戦闘を、一時間に平均3回行い。
移動時間などを除いて、一日に実質20時間ほど行った。
それを合計5日間続けている。
魔力換算で、収入は4万5000点。
魔力1点につき、売却値が100円。
税金や乗合馬車代などの諸々の経費などは別として。
二人で合計、450万円の利益となる。
5日間でこれだ。
新人は手に入れた魔石の数と、それがもたらす利益に目が点になった。




