104回目 古くからの因縁の一つを潰して面倒を一つ消す 5
「さて」
近所の連中をあらかた始末して回る。
その中でも、特に目当ての連中は念入りに体を入れていく。
恨み骨髄に徹すという奴だ。
そう簡単には終わらせたくない。
その一つ。
まずは自分の親兄弟。
それらを叩きのめしていく。
「ほーれ、頑張れー」
心のこもってない応援をしながら、怪物に向かわせていく。
運良くやってきてくれた怪物は、ヒロトシの狙い通りに集まってくれた。
そんな倒すべきへの感謝の気持ちとして、ヒロトシは自分の親兄弟をけしかけていった。
「傷はすぐに回復させてやるから。
頑張って倒すんだぞー」
嘘ではない。
怪物との戦闘での傷は、魔力を使って即座に回復する。
おかげで親兄弟は延々と終わる事のない戦いを強いられていく。
終わる気配のない戦闘を。
傷は治る。
死ぬ事はない。
だからといって、戦闘が有利に進むわけではない。
何や、親兄弟は素手で戦わされてるのだから。
魔力による能力強化もされないで。
それがヒロトシが与えた罰だった。
頑張りなさいと言い続けてきた親への当てつけである。
「ほーら、頑張れ頑張れ。
頑張れって言ってたんだから、自分が頑張れ」
はやし立てて追い込んでいく。
かつて自分がやられたように。
今は親を追い込んでいく。
兄弟も。
「ほれ、弟に妹。
お前らも頑張れ」
そいつらもヒロトシをぞんざいに扱っていた。
なので、相応の扱いをしてやっていた。
何にしてもだ。
そこに敬意がない。
思いやりがない。
労りがない。
人として相手に向ける何かが決定的に欠けていた。
何より、ヒロトシの人柄や性格、為人。
それらを全く省みなかった。
特性や性質を考え無かった。
ただただ周りに合わせるよう強要した。
だからヒロトシも強要していった。
怪物との戦闘を。
相手のことを省みる事なく。
何一つ考える事なく。
「どうしたどうした。
全然動けてないぞ」
怪物が襲いかかる。
それを避けられずに打撃を受ける。
その都度回復していく。
噛みつかれても。
引っかかれても。
様々な怪物の攻撃が当たっていく。
それでも傷を回復させられ、戦わされる。
そうせざるえない状況だった。
逃げ道はヒロトシが作った、透明な魔力の壁でふさがれている。
ここから逃れるには、怪物を倒して突っ切るしかない。
でなければ、死ぬまで終わらない。
死ぬ事も出来ずに、延々と怪物と戦わせられる。
「頑張れー。
根性を見せろー。
努力が足りないぞー」
ヒロトシの形ばかりの応援は続く。
いつ果てるともない戦闘。
それは戦闘と呼べるものでもない。
体を押さえつけられ、まともに動けない。
その状態で殴られ、かじられ、引っかかれている。
一方的に嬲られてると言って良い。
そんな彼らが生きていられるのは、途切れる事なく行われる治療と回復のおかげだ。
しかし、それは死ぬほどの苦痛を終わる事なく受け続ける事である。
生きていたとて、それは果たして幸せと呼べるのか?
実際、ヒロトシの親兄弟はもう死ぬ事を望んでいる。
この苦痛を終わらせるために。
そんな彼らにヒロトシは言葉をかける。
「生きるってのは苦しい事だ」
何度も聞いた言葉である。
親に言われた、周りの大人に言われた、近所の探索者達にも。
その言葉を、「殺せー!」「死なせて!」と叫ぶ親兄弟にかけていく。
「痛くても辛くても、乗り越えていけ。
そう言ってただろ。
だったら、そうしろ」
ヒロトシからの温かい励ましの言葉だった。
返答は悲鳴と嗚咽と怒声によってなされた。
常に補充される魔石で回復は途切れる事なく為され。
それでもついに回復が追いつかなくなっていき。
親兄弟はようやく臨終を迎える事が出来た。
全身を怪物に食われながら。
その間も回復は継続されていた。
おかげで意識を最後の最後まで失う事もなく、苦痛を受け続けて死んでいった。
ヒロトシによって怪物にけしかけられてから、5日目の事だった。
「もう終わりか」
目の前で親兄弟が死んで出て来た言葉はそれだけだった。
もう少し苦しんで欲しかった、というのが正直な気持ちである。
虐待をするような親や、軽蔑を隠さない兄弟など、その程度の存在でしかない。
それを薄情というのが間違っている。
親兄弟であろうと、接し方を誤ればこうなる。
むしろ、家族だからといって無条件で慕って助け合うと考える方がおかしい。
そもそもとして、ヒロトシの親兄弟はヒロトシを慕っていなかった。
助けもしなかった。
彼らが信じる良い事を押しつけただけである。
それは助けではなく、負担や苦難でしかない。
何一つ報われる事のない。
そんなものを強いてる連中を慕ったり助けるわけもない。
それをしたのが他人であっても腹が立つ。
身近な人間であればなおより一層怒りが募る。
もっとも身近な人間であるからだ。
本来なら、無条件で寄り添う対象だからだ。
それが自分をしいたげるとなれば、怒りはより一層深まるのも当然だ。
また、聖書に書かれたもっとも古い、最初の殺人は兄弟間での事だという。
だとすれば、血の繋がった者同士での殺し合いなど何もおかしなものではない。
むしろ、最も自然な形と言えるだろう。
どんなにそれが悲惨な悲劇であってもだ。
血族同士の殺し合いなんて、特段おかしなものではない。
「というわけで、お待たせ」
家族が目の前で惨殺されるのを見届ける。
終わってから近くに転がしていた連中に声をかける。
「次はお前らだ」
そこには、近所の連中で最後に残した者達。
探索者が転がっていた。




