100回目 古くからの因縁の一つを潰して面倒を一つ消す
鬱屈した日々が続く。
だいぶ減ったとはいえ、宿には盗人も物乞いもやってくる。
それらも処分して、数はかなり減ったが。
それでも完全に無くなりはしない。
どこからともなく流れてきて、悪さをしてくる。
それを処分すれば、治安機関と教会がやってくる。
それらを追い返すために、賄賂を渡さねばならない。
面倒な事この上ない。
幸いなのは、やる気を出した者達が成長している事。
追放された探索者や、浮浪者から探索者になった者達。
それらは順調に迷宮での仕事をこなしていっている。
おかげで場末の宿はかなり活気づいてきた。
最近は増えた売り上げを使って改装などもしている。
ヒロトシを慕う者達も増えた。
やり方を伝授され、それで成果をあげてるからなのだろう。
そんな者達が集う場末の宿で、ヒロトシはそれなりの立場になっていた。
そこにいる探索者で一番の実力者というのもある。
何せ、確保してる魔力の量も宿で一番。
単純な強さを信奉する者達には、それもまた敬意を抱く理由になっていた。
とはいえ、ヒロトシの中でまだ終わってない事もある。
「そろそろ、決着つけるか」
因縁。
かつてあったもの。
今も存在してるもの。
それを潰すべく動き出す。
それだけの力は手に入れたのだから。
あとは、実行するだけだった。
その日の夜。
ヒロトシは馴染みのある場所に出向いた。
自分の生まれ育った場所に。
何一つ良い思い出のないそこに出向き、見知った顔全てに魔力を注いでいく。
親兄弟に近所の者達。
その全ての意識に介入し、眠りにつかせていった。
そうしてから、意識に細工をしていく。
意識を失ったまま動くように。
その姿は、さながらゾンビのようだった。
そんな状態で、彼らは迷宮へと向かっていく。
時間も時間だから、目撃者もいない。
そうして迷宮の奥まで歩かせていく。
途中、怪物もあらわれるが、それらはヒロトシが倒していった。
温情によるものではない。
こんな所でくたばってもらいたくない、ただそれだけが理由だった。
そうして迷宮の奥まで進ませて。
戻る事も難しくなってきたあたりで意識を覚醒させていく。
「起きろ」
それで親兄弟や近所の連中の意識が覚醒する。
自分を取り戻した町の者達は困惑した。
大半の者達は、見覚えのない場所で眠りから覚めた事に。
それ以外は見知った迷宮で意識が戻った事に。
「なんだここ」
「家じゃないよな」
「おい、なんで」
「迷宮だぞ」
そんな声がそこかしこで響く。
それらにヒロトシは声をかける。
報復開始の宣言を。
「よう、久しぶり」




