10回目 新人教育 2
とにかく簡単な事でいい。
同じ事を何度も繰り返させる。
そうしてやり方を体感させる。
また、多くを一度にやらない。
まずは一つずつ。
確実に何か憶えたと思った段階で次にうつる。
ただし、一日に何十とものをおぼえさせたりはしない。
せいぜい二つ三つ。
それだけをまずはやらせ続ける。
今回の場合だと、警報や魔除けの作り方。
それの効果的な設置方法。
これだけを繰り返させる。
他にも必要な事はあるが、それらは後回しにする。
一度にそこまで憶えきれるものではない。
その代わり、教えた事を何度もやらせる。
悪い事では無い。
最初は言った事だけやらせる。
決まった事だけさせていく。
型稽古のようなものだ。
それが有効な場合もある。
少なくともヒロトシは、素人にはこれが一番だと思ってる。
そうして無理矢理にでも経験をつませる。
それから、それを土台にして考えさせる。
というより、考えるのはそれからの方がよい。
何の土台もないところで考えさせても、無駄や無理が多いだけだ。
「考えてやれ」
教育にあたってそういう者もいる。
とんでもない事だとヒロトシは思う。
やり方も分からないのに考えてどうするのかと。
まずは言われた通りに動かせば良い。
指示通りに動かせば良い。
指示待ち人間にさせておけば良い。
その方が無駄な失敗をさせる事無く作業をさせられる。
それをさせないで考えて行動させれば、失敗するのは当然。
自分で考えてやれと指示を出した者が悪い。
それなのに、
「何をしてる!」
と文句をつけるのだから質が悪い。
失敗させたくないなら、やり方を教えれば良い。
考えたってやり方なんか分からないのだから。
分からない事をやらせてるのだから、やらせた者が悪い。
当たり前の話だ。
そして、やり方が分からない者に何かをやらせる場合だが。
とにかく作業を定型化するしかない。
そうして、定まった手順通りに仕事をさせていく。
まずはそこからだ。
最初に定型的に必要な事だけを馴染ませる。
何度も繰り返して、最低限の事を身につけさせる。
そうしておけば、最低限の事は出来る。
その意味などについては、それから教えれば良い。
考えるならそれからで良い。
定型的なやり方で最低限の作業が出来るようにさせて。
そのやり方がどういう考えで構築されてるのかを伝え。
ならばその考えをもとに、新たな組み合わせが無いかを考えさせる。
そうしていった方が早い。
少なくとも、最低限の事をおぼえるなら、この方が良い。
そうやって必要な事をおぼえさせていく。
この先迷宮で活動するための知識や技術を。
まださわりの段階だが、新人はそれを少しは身につけ始めた。
同時に、そうやって見ていく。
学習能力があるのかどうかを。
どれくらい真剣にやってるのかを。
また、動きに無駄がないか、もっと効率化出来るところがないか。
それも見ていく。
定型化された動き。
それだけに、無駄や無理が出ればすぐに分かる。
ヒロトシは新人の中にそれらが無いかを見ていく。
必要なら教える為に。
動きを定型化させる意味はここにもある。
新人がものをおぼえるのに最適というのもあるが。
それと同時に、教える側も問題などを発見しやすい。
教える側にも利点があるのだ。
そうやって色々と洗い出しながら、ヒロトシは新人に作業をさせていった。




