1回目 極めてよくある日常
「こんなもんか」
真榊ヒロトシは戦利品を回収して腰を上げる。
倒した怪物が残していく魔石。
それらを集め終えたところだ。
世界中にあらわれた地下迷宮。
そこにはびこる怪物。
それらによる脅威に対して、人は迷宮に入って怪物を倒す道を選んだ。
そうした人類は、怪物を倒してあらわれる魔石を手に入れる事になる。
この魔石、様々な効果をもたらす。
いわゆる魔術と呼ばれる奇跡。
それを人は手に入れた。
おかげで、念じるだけで光を発生させ、熱をもたらしていく。
それ以外にも様々な効果を出す魔石。
その中に込められてる、魔力と名付けられたエネルギー。
それらは薪や石炭とは別の燃料を人類にもたらしていった。
いつしか迷宮での戦闘は、中から怪物が溢れる事を防ぐものではなく。
このエネルギーを手に入れるための手段とみなされるようになった。
ヒロトシもそんな迷宮探索にたずさわる一人である。
迷宮に挑んで、怪物を倒して魔石を得る。
そうする事を生業とし、生計をたてている。
今も、怪物を倒してあらわれた魔石を残らず回収したところだ。
倒した怪物は数十匹。
なかなかの成果だ。
倒したのが最も弱いとされる昆虫型の怪物ではあっても。
それだけの数を一人で倒したとなれば、十分賞賛するに値する。
最弱とは言っても、一匹で人間一人を殺傷する事が出来る。
それくらいの強さがあるから、怪物と呼ばれて恐れられてるのだ。
それが何十と集まってれば、ある程度の熟練と、それなりの人数で対処せねばならない。
単独で事を構えるなど、無謀にも程がある。
それを可能とするのは、相応の能力を持ってる場合だけだ。
幸いにしてヒロトシは、それだけの腕前をもっている。
迷宮に入るようになって5年。
その間、生き残るために努力をしてきた。
その甲斐あって、死ぬことなく今まで生き延びる事が出来た。
必要な知恵や知識、技術を培いながら。
おかげで、無謀な単独での探索をこなせる程になっている。
もっとも、それは迷宮にやってきてからずっと続けてる事ではあるが。
そんなヒロトシにとって、一人で大量の怪物を相手にする事は日常茶飯事であった。
今日もいつもの通りにいつもの作業を行う。
そんなつもりで怪物を倒していった。
それが出来るだけの能力も、遂行するだけの力も持ち合わせている。
(我ながら、無茶だけど)
それも自覚している。
けど、それでも一人での探索を続けている。
なんだかんだでそれに慣れている。
なにより、こうして一人でいる方が気が楽だった。
そういう性分なのだから仕方が無い。
そうして行ってる単独行動。
危険も大きくなるが、実入りも大きい。
何せ成果は独り占めできる。
稼ぎもその分大きくなる。
その成果をもって、町に一旦戻る事にした。
特に金が必要というわけでもないが、たまには外が恋しくなる。
(とはいっても……)
稼いだ金で豪遊するというわけでもない。
ヒロトシにとって、この世界での娯楽は大したものではない。
面白いと思えるものがないからだ。
趣味が合わないというのもあるが。
ヒロトシが求めるような遊びがないのが大きい。
何せ、いわゆる中世ヨーロッパとか江戸時代程度の文明水準の世界だ。
コンピューターゲームなどがあるわけがない。
せいぜい、双六や将棋などがあるくらいである。
それらはヒロトシの趣味には合わない。
なので、楽しみと言えるものがほとんどない。
町にいても、退屈なのである。
そんな退屈をしのぐために、危険な地下迷宮に挑んでしまう。
なんとも物騒な話である。
「しくじったよなあ……」
ため息がもれる。
「いくら、異世界に転生したって言っても」
それによる利点がない。
その事実に、ヒロトシはあらためて打ちのめされていった。