中編
夜は急激に気温が下がった。砂漠というのは森林地帯や都市に比べ、熱をため込むことが難しいのだから当然のことだった。分っていることだが、装備品の中にあった防寒着を身に着けても寒さがしみた。
夜空には月が出ていて、十分に周囲の様子をうかがうことができた。それでも一応は、右目のシステムを夜間用赤外線受容モードに切り替えていた。いまのところ周囲に不審な動きは見られなかった。僕は今一度、抱えていたPDWを確認した。ちゃんとチャンバーには初弾が収まっていた。口径は五.七ミリ、装弾数は最大五〇発、威力は拳銃とアサルトライフルの中間程度だが貫通力は小銃並みという代物だった。本体外装はほとんどプラスチック製でブルパップスタイル、光学サイトが標準で装備されていた。構えると自然に射撃体勢と照準が定まった。トリガーは軽く引けば単発、そこからさらに引くと連射となり、切換えなどの操作は不要だった。別のアサルトライフルなんかと比較すると操作は簡単だった。まさに個人携行の小火器としては完成された感がある。射撃訓練もちろんのこと兵士共通の基礎訓練は行なったが、実地は初めてだった。超VRでの訓練も受けたが、やはり現実と仮想現実とでは隔たりがあるように思った。肌と触れる空気感や匂い、わずかな光の加減、モノの見え方……。やはり現場は現場でないと感じるのことのできないものがあると思った。
あたりは静寂に包まれている。そういう表現が似合う気がした。時折聞こえるのは、風が大地と擦れる音だけだった。実はこれは任務でもなんでもなくて、壮大な実験のモルモットにされているのではないか?心なしかそのような考えが頭に浮かんだ。まさかとは思ったけど、なにか知らされていないことはあるように感じた。いずれにせよ、本部は通信が途絶えたことに気づいているだろう。六時間おきに状況を報告する予定になっていた。そのうち何かしらのアクションがあるだろう。そう思った。
今は平時なのだ。何が何でも前進する必要はない。さっさと退却するべきだろうか。そうは思ったものの。今回、ただやみくもに回収作業をしているというわけではない。現存している兵器を他国が接収しようとしているのだ。これは重要な点だ。それを防がなくては、僕は除隊どころか軍法会議ものだろう。つまるところ、前進するほかないのだ。ただ、僕はいいとしてもこんな状況では相棒にとってはあんまりだろう。人手不足だからと本部も何を考えているのやら。相棒は建物内で簡易ベッドを広げ、その上で寝袋にくるまって寝ていた。なにはともあれ、冷静な態度を貫いてるのは助かった。本心はわからないが、取り乱したり、パニックになっていないだけ上出来だ。あるいは新米ゆえ状況を理解していない可能性もあったが……。出来れば交代で見張りをしたいところだったが、相棒の怪我の具合を鑑みるともう少し休ませた方がいいだろう。僕の方はとりあえず、戦中におこなったナノマシン投与のおかげで、スペック上は二日間程度不眠不休で活動できるはずである。もっとも、そんなことを実際にした試しはなかったのだが。何とかするしかない。そんなことを思いながらも、少々疲れを感じていた。
翌朝は地平線から陽が昇る前から活動を始めた。相棒には周囲の哨戒を任せた。トラックの積み荷を整頓する必要があったし、運転席は大掃除をしなければならなかった。運転席を終えたら、今度は荷台だった。まったく、よく火事にならなかったものだ。バッテリーは梱包されていたが半分近くが何がしら被害を受けていた。そのうえ、裂けた飲料用ポリ容器の水をかぶっているところもあった。考えてみれば、禁水性のものの上に飲料用とはいえ水を積むというのもバカげた話だ。普通なら逆だろう。平時だから‘大したことではない’で済まされるかもしれないが、このような危機的状況ではちょっとしたことの積み重ねで命の危険が増大するのが常なのだ。そもそもこれほどバッテリーも必要なのだろうか?使いものにならなくなった積み荷を片っ端から投げ捨てていった。
太陽がすっかり地平線の上に姿を現したくらいになって「誰かこっちに来るわ!」と、周囲警戒を任せていた相棒が叫んだ。
僕は背負うように身に着けていたPDWを素早く構えるとトラックの陰から周囲をうかがった。
「どの方向だ?」
「あっちよ」相棒は身振りで示した。
太陽のある方向だった。熱を受けて陽炎のように揺らめく空気の先を、目を細めて人影を探した。すると、ぼろぼろの部隊旗を掲げた一人の人影が見えた。急ぐ様子もなく、ゆっくりと堂々とした様子でこちらに近づいてくるようだった。僕はトラックの陰から出て、ゆっくりそちらに向かった。
相手はあまりに自然な歩き方だったので、てっきり人間だと思った。反射的に銃を構えた僕に向かって、彼は言った。
「私は衛生兵です!救護部隊です」
抑揚のない声に違和感を覚えた。
近寄ってやっと分かったが、彼はヒューマノイドだった。それからぼろぼろになった部隊旗だと見えたのは赤十字の旗だった。
「ロボットか?」
「私は対人間向け治療プログラムを所持する衛生兵です。所属部隊は第七師団・歩兵大隊です。それと武器の所持使用は設定されていません」
僕は彼の説明を聞きながら、持参した指令書を取り出していた。堅苦しい文面のほかには指令用バーコードに加えて専用QRコードも記されていた。それを読み込ませることで指令を伝達することができる。ともかく指令を伝える必要があった。
「これは指令書だ。読み込んでくれ」
僕は書類を突き付けるようにして見せた。
「指令を確認しました。承認手順が必要です」衛生兵は唐突に言った。
「承認もなにも、これは指令書だぞ」
「指揮官、もしくは司令官の認証が必要です。もしくは予備コードによる認証が必要です」
僕は面食らった。
「どういうことだ?この指令書だけじゃ不十分なのか、」
「そうです」
「そんなこと言っても、もう戦争は終わってるんだ。これは撤退命令なんだ!」
「推測されますが、実行には認証が必要です」
これじゃ堂々巡りだ。僕はそう思った。
「だからこうして僕は指令を出そうと……」
「貴方の発言は理解できますが、手順が不十分です」
抑揚のない彼の言葉は、どこか僕をイラつかせた。
「くそっ、もう当時の指揮官はいないし、総司令官に至っては事故で亡くなってるんだよ。承認できる人物がいないんだ!」思わず口調が強くなった。
「私の父がなにか関係するの?」
突然、少し離れたところでやりとりを聞いていた相棒が口を挟んだ。
「父だって?!どういうことだい?」僕は相棒の方を向いて聞き返した。
「私の父は軍総司令官だったのよ。知らなかった?」
その言葉に僕は面食らった。
「つ、つまり君は、あの指令官の娘ってわけか」
「まあ、末っ子だから目立つわけじゃないけど」
僕の頭の中で何かがひらめいた。わざわざ新米兵士を相棒によこしたと思ったら、亡くなった戦時総司令官の娘だとは、これは何か理由があるはずだ。僕は衛生兵に向き直った。
「さっき、予備コードの承認といったな」
「はい」
「生体認証は指静脈?それとも虹彩か?」
「どちらか一方でも可能です」
「そうか」それから僕は相棒を呼んだ。「ちょっと来てくれ」
もしかしたら相棒が予備コードを持っている可能性があるとにらんだ。そして多くの場合において予備コードは紛失の恐れの少ないもの、たいていは人の指紋、虹彩、指静脈や声帯のいずれかか、それらを組み合わせたものが用意されるのだった。
「とりあえず虹彩から試してみようか。ダメもとだな」
相棒と衛生兵は向き合って目線を合わせた。
「虹彩による承認可能です」
「続けてくれ」
「認証しました。指令を受け付けました」
僕はひとまず胸をなでおろした。
「直感が当たったよ。まさか。予備コードとして君の虹彩が登録されているなんて」
「どういうことなの?」
「君の父である戦時総司令官は生体認証の予備コードに部下や側近でなく身内、しかも君の虹彩を使ったてことだ」
「もしかしてと思ったけど」相棒がつぶやくように言った。「戦後にお前が必要にあるかもしれない。と父が言っていたのはこのことだったのね」
僕はまた衛生兵の方を向いて「そうだ、聞きたいことがあるんだが」と尋ねた。
「なんでしょう?」
「僕たちはここへ来る途中、攻撃を受けた。部隊基地か集落だったと思われる場所だ」僕は地図を示しながら訊いた。「もしかして部隊がまだ戦闘状態で待機しているのか?」
「知っています。あそこには敵残存部隊と敵に鹵獲されプログラムを改変された兵器がいます」
「そういうことだったのか」
「彼らはあの場所に陣取ったときから守勢でいます。近づかない限り積極的な攻撃はありません」
それから衛生兵の彼は信じられない発言をした。
「ですが、もうじき彼らへの攻撃が始まります」
「は?」僕は思わず間の抜けた声を出した。「こ、攻撃って誰の指示なんだ」
「部隊自身が決定しました。長期間、指令部との通信が途絶えてたための最終措置です」
「そ、そんな、戦争はとっくの前に終わってる」
「先ほどの指示と手続きで判断できました。ですが他の部隊にはまだ通知できません」
僕は頭を抱えた。確かにシステム上は短期間において自己判断により滞りなく作戦継続ができるよう考慮されている。だが、自己判断によって敵を精査し攻撃となるとまた話は別だ。それにそのような設計には…、僕は上官の言葉を思い出した。「多少のことには目をつむる…」またったく、何が決めるのは人間だよ、ここじゃAIが勝手にことを決めだしてるぞ。僕は声に出さずブツブツ心の中で呟いた。
「味方の部隊は間もなくやって来ます」
衛生兵の一言に僕はまた頭を上げた。
「その、部隊の指揮官に会って話はできるのか?」
「可能と考えられます」
多少の予想はしていたもの、部隊の指揮官はヒューマノイド型というわけではなかった。部隊の指揮を執っていたのは装甲車だった。もともとは遠隔操縦タイプの指揮中継兼偵察車で、ひどいくらいキズやヨゴレだらけだった。ただ、それらと厳ついフロントフェイスと相まって、戦場で過ごしてきた強者といった風を思わせた。
僕と相棒はトラックを降りて部隊の構成をまじまじと観察した。部隊は戦車をはじめに、装甲車、装甲戦闘車、対空用ガンタンク、兵員輸送車、装甲トラックで構成されていた。大型ライフルを構えるヒューマノイドタイプの歩兵も何体かいた。ただし、それらは衛生兵と違って発声機能は無いモデルだった。
僕は衛生兵を仲介役にして部隊長と話をした。
「部隊は、あなたの指令を今は受け入れられないと言っています」
衛生兵は相変わらず抑揚のない声で受け答えをしていた。
「どういうことなんだ?本部の命令に逆らうつもりなのか」
「いえ、司令部からの最後の直接命令は徹底抗戦せよ。とのものでした。現に敵も各地に潜んで抵抗している。少なくと、もそれらをすべて排除するまで、あなたの指令は受け入れられない。とのことです」
ここじゃ人間不在の兵器達だけで、まだ戦争を続けていたんだ。とんでもない話だこった!僕は目眩がしそうだった。
「と、どのつまり、敵を全滅させるまでは撤退するつもりはない、ということなのか」
「その解釈で間違いありません」
これは、今の本部が知ったら仰天するだろうな、きっと。僕はそう思った。
衛生兵は指揮をとっている装甲車のところに行き、また戻ってきた。
「これからはお二方は部隊と行動を共にするように、とのことです」
「どういうことだ?」
「周辺の敵部隊に動きがみられるます。我々と共に行動する方が攻撃を受けるリスクを減らせます」
周りに目をやると、僕のトラックを取り囲むようにヒューマノイドタイプ歩兵が展開していた。
「だが、指示に従う必要はないだろう?」僕は言い返した。
「指示に従う方がリスク軽減になります。また、部隊にとっての不確定要素を削減できると言っています」
まさか、これは脅しだろうか?そう思ったが、いずれにせよ敵に攻撃を受けるくらいなら、それでも同胞の戦車部隊といる方がまだ安全だろう。そう思いながら僕は相棒の方を向いた。
「君は、どう思う?」
「そうね。でも、またあの時みたいにいきなり銃撃を受けるようなら、それでも味方と一緒にいる方が良いと思うわ」
「だな」
とにかく、おとなしくしていれば味方に撃たれるなんてことはあるい。妥協するほかないように思った。少しばかり悩んだが、結局答えは限られているように感じた。
「分かった。部隊と一緒に行動しよう」
すると、歩兵の一人が部隊のトラックから資材を運んでくると僕らのトラックの全面で何やら作業を始めた。
「なんだ、それでも気が利くじゃないか」てっきり修理でもしてくれるものだと思った。が、それは思い違いだった。半分割れているフロントガラス、さらには無傷だったサイドの窓ガラスも乱暴に取っ払うと格子状の反射防止カバーをぞんざいに取り付けただけだった。
「ははあ、そういうことか」僕はあきれたよう言った。修理には違いなかったかもしれなかったが、それはおおよそ実戦的配慮かららしかった。
「どういうことなの?」相棒が聞いてきた。
「窓ガラスだ。太陽光の反射で居場所が敵にばれないようにするためだ。つまり僕らのことを思ってじゃなくて部隊を守るための措置だな」
「部隊の安全を高めることは、お二方の生存率を上げることになります」衛生兵が付け加えた。
「ああ、そうだね。ガラスの破片でケガをすることもなさそうだ」どうせ彼らには理解できないだろうけど僕は「それに風通しも良くなったな」と皮肉を付け加えて言ってやった。
だが、衛生兵だけは反応が違った。
「あなたの言わんとすることは推測できます。ジョークですね。そして、こういうのを傑作というのですよね」
その言葉に僕は思わずニヤリとした。
「なんだ。わかっているじゃないか。君はいいセンスをしている」
部隊は陣形を組んで進んでいた。僕と相棒の乗ったトラックは後方に位置していた。荒野を低速で進んでいたが突然、部隊は歩みを止めた。僕は気づいて慌ててブレーキを踏むとトラックを止めた。
前方の車両に乗っていた小走りで衛生兵がやってきた。僕が運転席から顔を出すと、彼は「上空に航空機が接近中です」と伝えてきた。
「敵なのか?」僕は聞き返した。
「まだ不明です」
やっと本部が異常を察知して応援をよこしてくれたんだと思いたかった。
その直後、部隊の対空砲が掃射を始めた。
「トラックの下に隠れるぞ!」僕は叫ぶように言って相棒を引っ張り、トラックから降りた。
おそらく敵の残存部隊に戦闘機か爆撃機か、あるいは攻撃用ドローンでもいたんだろう。おちおちしてたら吹っ飛ばされてしまう。
「何が起きるの?」
「早く下に隠れろ!」相棒の言葉に構わず、先にトラック下に押しやった。
その時、上空でかすかな音がした。僕は思わず空を見上げるとキラキラと光るものが見えた。
「誘導クラスターか!?」
もうお終いだ。そう思うながら僕もトラックの下にもぐった。もし超精密クラスター爆撃なら逃げることなど不可能だった。トラックの下に入ると同時に、周囲は爆音と砂塵に包まれた。僕は相棒をかばいながら耐えた。他にできることはなかった。爆撃はいつまでも続くような気がした。あるいは、実際のところほんの一瞬だったろうか。
気が付くとあたりは静かになっていた。あたりは砂塵が舞っていて何も見えなかった。トラック下でじっとしていると、今度は歩兵の銃撃の音と共にヘリのローター音らきしものが聞こえた。しばらくのあいだ素早い動きの足音と散発的に銃撃音が聞こえた。敵なのか味方なのか分らなかった。クソっ、PDWを持ってくればよかった。そうすれば多少の抵抗はできただろうに。そんなことを思っているうちに、あたりは静かになった。
しばらくどうしようか逡巡していると突然、「大尉はいるか!」と、人の叫ぶ声が聞えた。
「大尉!誰か、居たら返事しろ!」
「ここだ!トラック下にいる!」
僕は叫び返すと、トラックの下から相棒と一緒に這い出た。
「大尉か?」
呼びかける声は聞き覚えのあるものだった。
「もしや中佐ではありませんか?!」
目の前に現れたのは多目的即時対応部隊の長である中佐であった。彼とは戦中に知り合った仲で、装備品調達の際、僕は彼らのわがままにいろいろと応えたおかげで親睦ができていた。
「久しぶりだな、大尉」
「ご無事ですか?」「我々は救出に来ました」
ほかの隊員たちも声をかけてきた。
「それより相棒の方がケガをしている。手当はしたが早く病院に連れて行った方がいいと思います」
「了解だ。しかし君も傷だらけじゃないか」
あたりを見渡すと自分のトラック以外の車両はすべて破壊され、ヒューマノイドタイプ歩兵は全部倒れている様子だった。やってきた隊員のなかにはアーマードスーツに身を包んだ姿もあった。それから彼らが乗ってきたのはヘリコプターでなく、大型の垂直離着陸輸送機だった。さらに上空に目をやると偵察爆撃機が二機旋回していた。
安堵のため息が出た。相棒は他の隊員に介抱されて先に輸送機のほうへ向かった。
「なんだ、相棒は女か?」輸送機に向かう相棒を横目で見た中佐は言った。「砂漠でドライブデートなんて、洒落てるな。うらやましいよ」
中佐は相変わらずの冗談好きだった。
「とんでもないですよ。敵の残兵には襲撃されるし、相棒は怪我をするし、挙句の果てには爆撃にさらされるなんて」
「そこはちゃんと計算済みだ」得意げな様子で言った。「爆撃ではケガしてないだろう?」
「ええ、まあ。それと相棒はただの兵卒じゃありませんでしたよ。なんと総司令官の娘だそうで」
「そいつあ、驚きだ。じゃあ、任務が終わったら次のデートに誘わないとな。こんなチャンス滅多にないぞ」
「まさか!」
中佐の冗談を聞いていた隊員たちは大爆笑だった。一瞬、緊張感が消えて和やかな雰囲気が漂った。
僕は思い出したようにあたりを見回した。それから「そういえば、衛生兵はどこです?」と中佐に聞いた。
「衛生兵?」
「ヒューマノイドタイプ兵で、武器を持っていないやつがいたはず」
僕は再びあたりを見回した。
「まさか、全員銃を持っていたが……」
その時、小型ラップトップの画面を確かめていた隊員が叫んだ。
「隊長!巨大砂嵐が近づきつつあります!急いで離脱をした方がよいかと」
そこで思いは断ち切られた気がした。僕は気になったが、衛生兵は生存者というわけでもないのだ。細かいことを言っている場合ではなかった。
皆、足早に輸送機に乗り込むと後方基地への帰路についた。
中佐に聞くところによると、今まで双方の残存部隊がいて自律的に戦闘継続をしていたことは本部も把握していたらしい。ただ、今回僕が命じられたような‘人間的な対応’に対するレスポンスを試すことにしたというのが、もっぱら実情らしかった。要はテストケースにされたわけだった。僕の懸念も当たらずとも遠からずというわけだったのだ。救出部隊も連絡が途絶えた時点で出動できるよう待機していたとのことだった。そして、あの超精密爆撃と降下部隊によってかつて味方だった兵器を行動不能にしたというのだった。
他の残存部隊については今後、敵味方関係なく容赦ない爆撃による処分作戦を実行することになりそうだとも言っていた。それにしても、あの衛生兵はどこへ消えたのだろう。幻想か幻覚か?まして幽霊じゃあるまい。相棒にも見えていたのだから。そんなことを思ったが、どうしようもなかった。後で現場の残骸が回収されればわかるだろう。部隊は僕が思っているよりも早く基地へと帰還した。安心感と疲労のためか、気が抜けたかのか分らないが、基地へ戻った僕は倒れてしまった。気が付いたときには軍の病院のベッドの上だった。