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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

月夜に盗み聞き

作者: 頼爾

誤字脱字報告ありがとうございます!便利すぎてびっくりです。

設定は大変ゆるめですが、思い付きのかきなぐり。

ゆるーく読んで頂ければ幸いです。

それは月の美しい夜だった。

夜の帳が下りてから公爵邸には荷物が2つ届いた。

丈夫な麻袋に入れられた荷物は気味が悪いことにうごめいていた。しかし、荷物を担いで公爵邸に入っていく執事のオスカーと御者エイデンを訝しむ使用人は誰もいない。

すれ違う使用人たちはその袋の中身をなんとなく分かっている。そして、中身がどの部屋に運ばれるのかも分かっている。


「そろそろいいと思うのよね」


お嬢様付きの侍女ミーシャは件の部屋に向かっていた。

オスカーとエイデンが荷物を運び込み、今その部屋には荷物の中身とオスカー、そしてお嬢様しかいない。彼らが部屋に入ってしばらくたった。

オスカーと荷物の中身の安否なんてどうでもいいが、お嬢様が心配だ。


お嬢様が婚約者である王子にないがしろにされ続けて3年。

学園では王子がやるはずの生徒会の仕事を丸投げされ、王宮ではこれまた王子のやるはずだった書類仕事を丸投げされる。しかも手柄は横取りされる。

最初はそこまで酷くなかったが、この半年は本当に酷かった。

ただでさえ王位継承権1位の王子の婚約者ということで大変なお勉強をなさっていたのに、仕事まで押し付けられてお嬢様の睡眠時間はかなり減っていた。


私もどれだけ他国の呪いに詳しくなったか。

禿げる呪いがあると聞けば王子に試し、黒魔術もやってみた。

藁人形に王子の姿絵を貼り付けて真夜中に釘で打ったりもした。うっかり執事のオスカーに見つかったが、彼も翌日、藁人形と王子の姿絵を手にして現れたのには驚いた。


呪いの効果があったかは分からないが、王子とその浮気相手にはやっと天罰が下るのだ。

もちろん、呪いという不確かなものに縋っていただけではない。

お嬢様の評判が落ちないように、他家の使用人達のネットワークを使ってお嬢様がいかに素晴らしいかを流し、同時に王子の酷い所業の情報を集めた。


件の部屋に近づくと、扉が少しだけ開いていて声が漏れてくる。


「そうね……女性の方は他国にとばすのがいいかもしれないわ」


「かしこまりました。他国の娼館に売り払うか、奴隷にでもしましょう」


「彼は……そうね……もう興味もないわ。私の目の届かないところに行ってほしいわ。そういえばこの方もよく、忠告する私に目障りだと言っておられたし。丁度いいわね」


「お嬢様……。では、こちらは炭鉱での強制労働に回しましょう。罪人が行くところです」


お嬢様の声だ。いつまでも聞いていたいと思うような凛とした、聞きやすい声。はぁ、やっとお嬢様もあのバカぼんくら王子から解放される。お嬢様のお部屋にリラックスできるお香を焚いておいて良かった。今日はゆっくりとお休みいただけると思う。


そしていつも絶対零度の威圧と言葉を吐いてくる執事オスカーのお嬢様を労わる優しい声。あんた誰だよ!?同一人物かよ!?と疑うような豹変ぶりだ。

「まだその仕事、できていないんですか?」と普段は平気で言ってくる男だ。私がお嬢様付きの侍女で、お嬢様と過ごす時間が1番長いのであいつからしたら面白くないのだろう。

有能で顔がいいので告白した猛者もいるが手ひどく振られたらしい。

オスカーがお嬢様にしか興味がないのは見ていれば誰だってわかる。態度があからさますぎる。まぁ浮気相手を他国に、王子を強制労働に送ることができるなら、さすがはオスカー。その有能な頭脳をきちんと余すところなくお嬢様のために使ったのだ。

陛下も王妃もやっと親バカ状態から抜け出して、現実を見て、王子を野放しにするのをやめてくださった。あんなんが王になったら国が大変なことになりますからね。


部屋の外で胸をなでおろし安心していると、耳が不穏な会話を拾い上げた。


「……カメリア様……私はずっとあなたのことを……あんな王子に渡すくらいならと何度思ったことか……」


「ん……」


んんん?


「お、オスカー……待って……あ……ん……」


はぁぁぁ!?オスカー、私のお嬢様にナニをしでかしている!?

慌てて件の部屋に駆けこもうとすると、後ろからガッチリと羽交い絞めにされた。


「ダメだよ、ミーシャ。お嬢様は嫌がってないだろ?」


「げ、エイデン」


とっくにいないと思っていた御者のエイデンが耳元でささやく。全く気配がしなかったよ。息が耳をくすぐるのでくすぐったくてモゾモゾ体を動かすが力を緩めてもらえない。


「ずっと……カメリア様をお慕いしておりました……」


「オスカー……」


「奥様に根回しも済んでおります。あとは旦那様を黙らせるだけです」


「え……? あ……ま、待って……」


なんだと!!?奥様はオスカーの味方!?そんな!?お嬢様ぁぁぁ!にげてぇぇ!

部屋に押し入ろうとジタバタするが、エイデンはびくともしない。


「ちょっと、お嬢様が!」


「いや、だからお嬢様は嫌がってないでしょ?」


「あのオスカーだから無理矢理かもしれないでしょ!!ちょ、耳元で話すのやめてよ!」


「ふふ」


「っ」


エイデンは面白がっているのか耳に息を吹きかけてくる。体がビクリと強張った。


「カメリア様……口をあけてください。そうお上手です」


「ふ……ぅん……」


おのれ、オスカー!!お嬢様に何て事を!!ひぃぃ、私のお嬢様が!!


「今のミーシャみたいにお嬢様はきっと嫌がってないよ。嫌がってたら悲鳴くらいあげるからさ」


「きっとオスカーは傷心のお嬢様につけこんで!」


「そうなのかなぁ??」


くすくす笑いながらエイデンは首筋に顔をうずめてくる。


「ねぇ、俺にこうされるの嫌?」


「カメリア様、私の首に手を回して。そう、よくできましたね」


「オ……オスカー……」


耳元でエイデン、部屋の中のオスカー、そしてお嬢様の苦し気な声が聞こえる。

仕方がない。お嬢様の危機だ。片足をそっと持ち上げると、思い切りエイデンのつま先を狙って落とす。


「いてっ!」


「お嬢様!!」


エイデンの拘束が緩んだ隙をついて部屋に駆け込むと、お嬢様はオスカーにしなだれかかって目を閉じていた。


「あなたもお楽しみでしたね」


オスカーは眠っているのか気を失っているのか分からないお嬢様を横抱きにしながらにやりと笑う。こいつ、気づいていやがったな。


「お嬢様は!?」


「お疲れのようです」


オスカーは愛おし気に腕の中のお嬢様に目を向ける。


「誰のせいで!!?とにかく、お嬢様をお部屋に。お香を既に焚いてあります」


「ほぅ、あなたにしては優秀ですね」


オスカーはカラカラと上機嫌に笑い一足先に部屋を出る。


「エイデン、きちんとしなければなりませんよ?」


オスカーは廊下に蹲るエイデンに声をかけるとさっさと歩き去る。

ミーシャはエイデンに一瞥もくれることなくお嬢様!と言いながらオスカーの後を駆けて行った。


「その対応はさすがにひどくない?」


誰もいなくなった廊下にエイデンの独り言が響いた。


お読みいただきありがとうございます!

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