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9-11. 地下の奸計

 薄暗い洞窟で、蝋燭の光がゆらゆらと揺れていた。

 湿った匂いが立ち込める中、一塊りの黒い影が蠢いている。


「——やはり、運命からは逃れられぬか」

「はっ……」


 その影の中心にいる男がフードの下で口元を歪めると、集まった男達が、半円を描くようにその前に膝づく。

 くつくつと楽しそうに笑うフードの男に、恐る恐る苦言が呈された。


「しかしながら、奴らの警戒は今後、より深まるはず。そうなっては、我々の真の目的に気付かれる可能性も」

「また、歴史を繰り返さぬためにも、早急に、ご決断を……!」

「まあ、焦るな」


 のんびりと応えた男に、何をおっしゃいますと言いかけた集団を、彼は片手を上げて制す。

 不敵な笑みを湛えたまま、ぐるりと見回して、力強く告げた。


「準備は、すでに整っている」


 男達が騒つく。過去に仕掛けた幾度もの計画は、全て失敗に終わっていた。

 新たな事実が浮上した今、今後の計画を見直す必要があるために開かれた集会だ。

 それなのに、話し合いもそこそこに、彼らの仕える主人は、自信たっぷりと鎮座して言い放った。


「四大王国各国の教会支部地下に、魔法陣を描いただろう」

「あれは……もう使えぬではないですか」

「ドラゴン召喚が失敗しては、もう《魔女》が触れることは……」


 口々に言い募るのを、虫けらでも見るように眺めて、男は嘆息する。


「再利用、という言葉を知らないのか、お前達は」

「さ、再利用……?」

「《魔女》の魔力でなく、魔力自体に反応するように改良することは造作ない。あとは」


 男は、一際邪悪な笑みを浮かべた。

 滅び去った自国を取り戻すのに、その原因となった力を利用するのだ。


 ——屈辱の仕返しに、奴の授けた魔法とやらを使ってやろうではないか


「我ら帝国の切り札を、再編成し召喚しよう」

「ま、まさか、帝国古代兵器(シュトラストラ)を……」

「なりません、我等も無事でいられるか……!」


 大陸全土を焼き尽くすと恐れられ、だからこそ独裁の礎となった兵器は、《始まりの魔女》が現れるとともにその魔法によって解体された。

 あれがあれば、よもやこんな身に貶める必要もなかったはずだ。

 例え、再び止められたとしても、男には考えがあった。


「我が蒔いた種が、芽を出す頃だ」


 この時を待ち望んでいたのだ。人ならざるものに堕ちたとしても。

 《始まりの魔女》が転生し、再びこの世に現れたなら、必ずもう一度機会が訪れる。

 何度も失敗した計画は、《魔女》の性質を図るには申し分なかった。


 ——人に成り下がった《魔女》など取るに足らん


 男は、《始まりの魔女》が転生以前の記憶を有していないことに勝機を見たのだ。

 以前の《魔女》であれば、心を痛めても、《始まりの魔法》を躊躇うことはなかった。

 人間のように育てられた、今の《魔女》であれば、どうだろう。

 男が語る計画に、不安げだった集団が、次第に歓喜の渦に包まれる。

 洞窟の中に響く、称賛の声。


「クタトリア帝国再建を!」

「アトヴァル様! アトヴァル様!」


 フードの下から、ちらりと金の双眸が光っていた。


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