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8-4. 魔物被害

 カウンシル執務室では、夏季休暇中だというのに、メンバーたちが忙しなく動いていた。

 ユージンとロッシは机に広げた地図を睨んで議論し、ヨルンはレヴィとリュカとともに、書類の束に目を通している。

 その横で、ヴァネッサはレヴィの代わりに、辺りを水浸しにしながら、慌ただしくお茶の替えを振舞っていた。


「な、何事ですか……」


 執務室の扉を開けたユウリが、呆然と発した言葉に皆手を止めて顔を見合わせる。

 気まずい沈黙が流れ、ユウリはきょろきょろと助けを求めるように室内を見回した。その様子に、ユージンが諦めたように口を開く。


「ユウリ、こっちだ」


 手招きされて机までいくと、そこに拡げらていたのは学園の地図だった。所々に赤い印が付いていて、ロッシがそれを指差しながら、


「ここと、ここ。あとここで、生徒が魔物に襲われた」

「ええ!?」


 驚いた声を上げるユウリに、ユージンは付け加える。


「幸い、危険種ではなかったのと、全員上級クラスの生徒だったお陰で、負傷者もなく討伐はできている」


 それでも、学園内に魔物が出た、などという話は聞いたことがない。

 どういうことだと驚くユウリに、リュカが書類の束をバサバサと振る。


「面倒なことに、魔物の目撃報告も結構きてるんだよ」

「ど、どうなってるんですか」


 ヨルンが書類に目を落としながら続ける。


「今までも、何件かはあったんだよ。警備団が追い払ったり、討伐したりしてたから。けど、昨日から急激に数が増えた」

「それに、今は学園長がご不在なので、カウンシルが対応に追われているんですよ」


 レヴィに言われ、ユウリは執務室のこの慌ただしさに納得した。ラヴレは教会へ行くと言い残して、数日前に学園を発っている。


「ユージン。やっぱり、視察した方がいいんじゃないかな」

「西の森か」


 ユージンの返答に、ヨルンは頷いた。魔物被害が集中しているのは、西の端の庭園付近だった。


「あの!」


 準備を始めたカウンシルに、手持ち無沙汰にしていたユウリが、意を決して声を上げる。


「私も、行きます!」


 苦笑したヴァネッサが、ヨルンを見た。彼は仕方ないとでもいうように笑って、肩をすくめる。


「そのつもりだよ。どうせ、止めても来るでしょ」


 そう言われて、ユウリは、ふふ、と嬉しそうに笑った。




***




 西の森の入り口に隣接する西門の側、西の庭園は、現在立ち入り禁止になっている。

 魔物の被害も、目撃情報もこの辺りに集中していたのだ。

 ここで討伐、目撃されたのは、ゴブリンやカーバンクルなど比較的小型の魔物と魔獣であったため、木々や草花が多少倒れているものの、庭園自体はそれ程荒らされていないようだった。


 ユウリは機械時計を握って、見落としがないように、辺りにゆっくりと探索魔法を広げていく。

 カウンシルの面々は、蹴散らされた場所を魔法痕追跡魔法で集中的に捜査していた。


「庭園ではないみたいですね」


 隅々まで探索魔法を掛け終えたユウリが、西門を見据えて言うのに、カウンシルメンバーたちも頷く。お互い、西の森に向かって伸びる痕跡を捉えていた。


「このままじゃ、課外授業も出来ないな」


 西の森に足を踏み入れるや否や、ユージンが呟いて、ため息をつく。

 道があった場所は抉られ、その周辺は踏み荒らしたと思われる魔獣の足跡が点在している。


「もしかしたら、生態系が変わったのか」


 ロッシがいうように、教会の管理する危険種は、ごく稀に移動したり、他の魔物を襲ってその住処を奪ったりもした。

 それが学園近くでも起こった可能性はゼロではない。その場合、速やかに教会の危険種管理部に報告する義務がある。


「あ!」

「何か見つけた?」


 探索魔法を施していたユウリが声を上げて、森の中、特に被害規模の大きな場所に向かって、風を巻き起こす。掘り起こされた岩や倒壊した木々が寄せられて道が出来、皆がそのひらけた場所へと駆け寄った。


「これが、この辺りにあと幾つかあります」


 ユウリが指差す先に、土を被った魔法陣が見える。緊迫した空気が流れ、皆警戒しながら辺りを見回した。

 もう一度探索魔法かけ、ユウリがホッと息を吐く。


「辺りには、もう誰もいませんよ」


 その言葉に、緊張が緩んだ。

 流石にもう、オーガ級の化け物と半魔法は勘弁してほしい、と誰もが思っていた。

 警戒は解かずに、ユージンとロッシが陣に近づく。


「これは、典型的な召喚魔法陣だな」

「ああ、何の変哲も無い」


 ある意味拍子抜けするが、ここに魔法陣があること自体が問題なのだ。

 ふと、ヨルンが一部を指差した。


「でも、ここ、ちょっと違うくない?」

「本当ですね……これは、古代文字ですか?」

「古代文字って……やっぱりクタトリア関係ですかね」


 ユウリが言いながら、よく見えるようにと土を払う。

 指先がその文字に触れた途端、身体の中からずる、と何かが流れ出る感覚に、ユウリは慌てて手を引いた。


「や、気持ち悪……ッ」


 青ざめて膝をつくユウリを、ヨルンが抱き止める。

 その眼前で、魔法陣が淡い光を帯び始めた。それに呼応するように、木々の間からも他の魔法陣の光が零れている。


「やられた!」


 ヨルンが叫ぶ。


「ユウリの魔力を()()()、発動するようになっていたんだ!」


 学園の上空が、黒々と覆われ始める。

 一同は大急ぎで、学園へと駆け出した。


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