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異世界の魔女と四大王国 〜始まりの魔法と真実の歴史〜  作者: 祐
第七章 ユウリとヨルン
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7-6. 突然のプロポーズ

 太陽はとうの昔に地平線の向こうで、空は名残の光でぼんやりと薄暗くなっている。

 パーティー会場に隣接した中庭に生暖かい風が吹き抜けるが、会場の熱気よりは余程心地よかった。


「風が気持ちいいですね」


 落ち込んだ気持ちを吹き飛ばすように、あえて明るく言ってみたユウリだが、ユージンは無言で前方を見つめている。

 強引に引かれて少々痛む腕を摩りながら、ユウリは居た堪れない気持ちになった。


(どうしよう、この空気)


 上目遣いで見上げれば、虫ケラでも見るような冷たい一瞥が返ってきて、間が持たない。


「ユウリ」

「はい?」

「お前、ガイアに来る気はないか」

「へ?」


 ようやく言葉を発したユージンが、思いも寄らないことを言い出して、ユウリは付け焼き刃の上品な言い回しも忘れて、間抜けな声を漏らした。

 ユージンは相変わらずにこりともせず、ただ、長い指をユウリの顎に絡めて、彼女の顔を上げさせる。

 紺の双眸にぶつかって、冷たさの中に燻る熱が見えて、何が何だかわからない。


「あ、あの……?」

「俺の、正妃として、ガイアに来ないか」


唐突な提案に、ユウリの頭は真っ白になる。


——今、彼は、何といった?


正妃、と。

それは、彼との婚姻を意味するもので。


「なななな」

「勘違いするなよ」


 今の今まで、拳骨くらいしかもらったことのない男からいきなり求婚されて動揺するユウリに、ユージンは嘲るような笑みを返す。

 それは、たった今、プロポーズをした相手に向けるものとは到底思えないような表情だった。


「ガイアなら、その機械時計を研究して、もっと大きな装置が造れるだろう。そうすれば、ガイア王国内であれば、外に漏れることなく、お前はそれを外しても自由に力を使える」


 ユウリは、ユージンの言わんとしていることがわからない。

 ただ、彼は、自分のことをずっと想っていたというわけではないようだった。


「勘違いって……」

「俺は、お前の力が欲しい」


 身も蓋もない言い草に、ユウリは絶句した。


「《始まりの魔法》は、俺が王になるにあたって、強力なサポートとなる。お前を所有することで、俺は、ガイア史上最も力のある、完璧な国王になれる」

「はぁ!? 所有って!」


 明らかにユウリを人間扱いしない物言いに、流石に抗議の声を上げるが、ユージンは意に介さないように笑い、続ける。


「悪くない条件じゃないか。ガイアは、お前を狙う勢力から身を隠す技術を提供できる。お前は、庶民の出ながら四大王国国王正妃」

「そんなこと、私、望んでません!」

「ヨルンは、お前に何を与えられる?」

「い、今、ヨルンさんは関係な……っ!」


 ユウリの言葉は、最後まで紡がれなかった。

 唇が、ユージンのそれによって塞がれていて、ぬるりとした何かが、ユウリの唇を割って侵入しようとしている。

 そう認識した瞬間、ユウリは、思い切りユージンの胸を突き飛ばしていた。


「な……っ、なん……っ!?」

「何を今更」


 真っ赤になって涙目でゴシゴシと口元を拭うユウリを、ユージンが笑う。

 狼狽しながら睨んでくる瞳に、ああそうか、と彼は呟いた。


「治療の時、お前は意識がなかったな」

「はい!?」


 治療、と言われて、処置室で目覚めたあの時を思い出す。

 何か暖かなものが喉を通り、全身に広がっていく感覚に、ふわりと意識が浮上したのだ。

 鉛のような瞼を必死で持ち上げて、そこに見えた銀色に安心した。——まさか、あの時。


「口移しによる人工救命措置。不可抗力ではあるがな」

「そ、そんな」

「お前が誰を意識しているにしろ、もうカウンシル全員、お前の味を知っているぞ」


 あまりの侮辱に、カァッと頰に血が上るのと同時に、ユウリは機械時計の収まるビブネックレスを握っていた。

 二人の間の空気が弾けて、ユージンがよろめく。


「ユージンさん、最っ低っっっ!!」


 絶叫して、駆け出していた。


(ありえない、ありえない、ありえない!!!!)


 キスされたことだけでも信じ難いのに、それが初めてではなく、カウンシルの皆んなが口移しの治療をしていたなんて聞かされて、ユウリは冷静ではいられなかった。

 確かにその治療がなければ、死んでいたかもしれない。

 けれど、こんな知らされ方をされて、これからどういう顔で皆んなに接すればいいというのだ。


「最っ低!」


 大体、あの求婚は何だったのだろう。

 ユウリを、《始まりの魔女》という道具としてしか見ていないような、冷酷な申し出。

 でも確かに、ユージンの瞳の奥は、揺れていたように思う。


「もう、何なの、一体……」


 楽しい思い出になるはずだったサマーパーティーだったのに、自分は何故こんな目に遭っているのだろうか、と悲しくなって、ユウリは目尻に滲むものを無理やり拭った。


(こんな顔じゃ、心配かけちゃう)


 しばらく夜風に当たって涙を乾かそうと、ユウリは茂みの側にあるベンチに腰掛ける。


 ——その茂みの影に、目深く被ったフードの下からユウリを見つめる人影があった。


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