表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/114

1-6. 学園長室

 学園の中でも一際高い、白亜色の塔。学園長室はその上階に位置している。

 執務室から舞い戻ってからしばらく、様々な書類が積み上げられた卓上でペンを走らせていたラヴレは、ふと顔を上げた。


「ノックくらいしていただきたいですね、アントン」


 苦笑したその視線の先に、無表情な赤髪の男が佇んでいる。

 ラヴレと同じ金の刺繍に彩られたフード付きの外套を羽織った男は、抑揚のない声で告げた。


「悠長すぎやしないか」

「全て、法皇様の思し召しです」


 挨拶もそこそこに見つめ合ったまま、敢えて主語を省いているような会話。

 よく知る同期であるからこそだと、ラヴレは解っている。


「災いととるか、幸いととるか、それはまだ、誰にも決められません」


 それに、とラヴレは思案する。

 あの不安を色濃く写した瞳を思い出し、皆が恐れるほどの脅威とは、どうしても思えなかった。


(彼女は《魔女》であることを知らなかった)


 魔法教会が最も恐れていること。

 それは、()()()()()()()《魔女》が再来することによって、繰り返される歴史。


 数年前、教会は神託により、大きな力の誕生を予言していた。

 ただそれは当時、極一部の教会関係者である幹部会のみ知る事実によって、あり得ないこととして処理されている。


 《魔女》は封印ののち、魔法教会によって完全に()()()()()()()()()


 だから、《魔女》が復活するはずはないのだ。


 それが今までの認識だった。

 ただ、ラヴレが見つけてしまった、普通ではあり得ない力を持つ少女。

 その存在が、教会の絶対的な自信に影を落としている。


 だからこそ、何がなんでもユウリを学園に入学させたかったのだ。

 教会の運営する世界最高の教育機関。

 《魔女》の片鱗が見えたその時、何よりも迅速に行動に移せる場所だ。


 アントンの言う通り、悠長なのかもしれない。

 けれど、今日の様子を見る限り、彼女はただ膨大な魔力を持っているだけで、それすらもコントロール出来ないほど未熟だった。

 今はまだ、行動に移すときでは決してないと思う。


「報告書はできています。でも真逆、貴方が使い魔のような真似をしているとは思いませんでした」


 少々真面目すぎる同期に対して、軽い嫌味を交えて悪戯っぽく笑うラヴレに、アントンは睨みをきかせる。


「おまえがきちんと仕事をしてることの方が、俺には驚きだよ」

「それはまた、辛辣ですね」


 飄々と返すラヴレに、彼は溜息をついて、その手から書類を受け取った。


「同期のよしみとして、忠告する」


 中身を確認した後、もう一度ラヴレを見据えて、アントンは怒りとも焦りともいえない表情をする。


「《魔女》から目を離すな」


 それだけ言うと、彼は呪文の詠唱とともにその姿を消した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ