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異世界の魔女と四大王国 〜始まりの魔法と真実の歴史〜  作者: 祐
第六章 学園カウンシル
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6-16. お兄様?

 ユウリの身体も回復し、ようやく普段通りの授業に出られるようになると、カウンシル執務室も通常業務へと戻った。

 午前中の仕事を終え、暖かい日差しに包まれた執務室で皆が思い思いに過ごしていた時。

 和やかな空気を破って、勢いよく入口の扉が開く。

 そこには、首まで真っ赤にしたユウリがいて、わなわなと震えていた。


「リュカさぁぁぁああぁんん!?!?!」

「わ、ユウリ、まだ走っちゃダメよ」


 心配するヴァネッサの横を素通りして、ユウリは、ソファでお茶を飲んでいたリュカに掴みかからんばかりに詰め寄る。


「なんか、変なこと言われて謝られたんですけどぉ!? めっちゃみんなが話しかけてくるんですけどぉぉおお!?」

「ああ、あの娘達やっぱり広めちゃったんだ」

「やはり貴様かぁあー!!!」


 怒りのあまり変な口調になるユウリを宥め、授業への出席を再開したばかりで何事か、と皆がリュカに視線を集める。

 困ったなぁ、と全く困っていない様子で言い、彼は苦笑した。


「なんかゴタゴタしちゃったでしょ? だからちゃんと事態の収拾を、極めて穏便な方法でつけたんだよ」

「お前の考える『極めて穏便な方法』ほど恐ろしいものはないな」

「ひどい、ロッシ! 俺はちゃーんと親衛隊のみんなに謝って」

「で、どんなロクでもないことを言った」


 ユージンにまで突っ込まれて、あまりの信用のなさにリュカは本気で泣きそうな顔をした。


「ただ、誰にも言わないでって言って、『嫉妬させてしまったのは悪いけど、ユウリは俺の生き別れた妹で、大事な仔猫ちゃんなんだ』って」

「妹じゃなーーーーい!! 私! リュカさんの! 妹! じゃない!」

「ああ、それはそれは」


 地団駄を踏むユウリに、レヴィはふと顎に手をやり、呟いた。


「意外に名案かもしれませんね」

「レヴィさぁあああぁん!?!?」


 うるさいとユージンに拳骨を貰って涙目のユウリに、レヴィは可哀想なものを見るような目を向けている。


「身内だと明言すれば、リュカさんのあの異常なまでの発情もシスコンの一言で片付けられますし、ユウリさんの反撃もただの兄妹喧嘩として生暖かく見守ってもらえますし、リュカさんも下心を疑われずに堂々と公衆の面前でユウリさんを愛でられますし」

「レヴィ様、今日切れ味いいわね」

「ヴァネッサ……切れ味良すぎて、俺死にそう」


 彼の下心を的確に皮肉ったレヴィに、リュカが顔を覆って呟く。

 ユージンとロッシは、諦めたように噂の沈静化の相談を始め、レヴィはお茶のお代わりを用意し始めた。


「ユウリ」


 聞こえるくぐもったリュカの声は、先ほどの戯けた様子とは打って変わって震えていて、騒がしかった室内がしんとなる。


「俺は、君が大事だから。もう傷ついて欲しくないから。でも、俺は、君を手に入れるには罪を重ねすぎてるから、これが一番いいと思ったんだよ」

「リュカさん……」


 ユウリは、ずるいと思う。

 そんな声で、そんな風に言われたら、みんなの前で騒いだ自分が最低な気がするじゃないか。


 彼だって傷ついていたのを知っている。

 身体についた傷はいつか癒える。

 けれど、心についた傷は表に見えなくて、それが乾いているのか、いつまでじくじくと痛んでいるのか、そんなこと本人しかわからない。

 それが、ユウリにはとてももどかしくて、悲しい。

 できることなら、全部包み込んで治してあげたいと思う。


 ヨルンが苦笑して、泣きそうな表情のユウリを外套の中に抱き込む。


「全部背負いこむ必要なんて、ないんだよ。完璧に自己完結できる人間なんて、この世にいない。だから、みんな頼ったり甘えたり助けたりして生きていくんだ」


 誰にいうでもなく、呟かれたヨルンの言葉。


 それならば。

 リュカの心も、いつか癒えると言えるのだろうか。

 助けたいと思う心も、無駄にはならないのだろうか。


 ヨルンの腕から抜け出して、ユウリは深呼吸する。


「リュカさん」

「……」

「あ、リュカお兄様とでも呼んだ方がいいですか?」

「!?」


 悪戯っぽい声に驚いた様子で顔を上げるリュカに、彼女は晴れやかな笑顔を向けた。


「今までの落とし前は、つけてもらいますよ」


 リュカがクスリと微笑う。


「怖いなぁ」

「まずは、ユージンさんとロッシさんから私を守ってください」

「は?」「どういうことだ」

「ああ、あれねぇ」


 ヴァネッサが提示したユウリの夏季休暇前の成績表は、追試になったせいか、色々あって授業をサボり気味だったせいか、壊滅的である。

 般若の表情のユージンとロッシに、ユウリは本気でリュカの背後に隠れるのだった。


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