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異世界の魔女と四大王国 〜始まりの魔法と真実の歴史〜  作者: 祐
二章 前途多難な学園生活
22/114

2-6. 美少女

 今日の魔法実技は、鍛錬場での攻撃魔法訓練である。


 相変わらず実技は苦手だが、なんとか魔法を形にすることはできるようになったユウリは、以前ほど緊張せずに授業に挑めるようになっていた。

 くじ引きで負けてユウリのパートナーになった生徒は、当然のごとく協力的でなく、さっさと自分の課題を済ませてそっぽを向いている。

 今日の課題である稲妻を小さく出して喜んだ彼女を鼻で嘲笑(わら)って、自分の分だけ書き殴ったレポートを押し付けてから、仲の良い生徒と合流するべく消えていった。

 それでも、延々と成功するまで居残りさせられた頃よりは確実に上達している、とユウリは嬉しくなる。

 レヴィとリュカの丁寧な指導で技術面を、ヨルンの何だかふんわりとした説明で魔力の流れを、ユージンとロッシのスパルタで精神面(?)を、それぞれ強化できたことが実感できて、睡眠不足も報われるというものだ。


 何度か稲妻を練習してレポートに書き込み、教師の方に向き直った時、パチパチと爆ぜる音がして、ユウリの右腕に、腕ごともげたのではないかという衝撃が走る。

 目の奥が熱くなるのをこらえながら、燻っている肘から先を呆然と眺めて、ユウリは初めて、()()()()()()魔法が放たれたことに気づいた。


「あらぁ、ごめんあそばせ」


 少し先で固まって雑談していた女生徒たちが、くすくすと嫌な笑い声を立てながら、申し訳なさを微塵も感じさせず謝ってくる。


「超特の方々と親しくていらっしゃるから、そのくらいは避けていただけるかと思いましたわ」


(普通、そこまでする!?)


 わざと当てたのだ、と気付いて、かっと血が上る。

 一歩間違えばただではすまない嫌がらせに、流石に怒鳴りつけてやろうとしたタイミングで、ふわりと右手が暖かくなり、痛みが少し和らいだ。


「大丈夫?」


(う、わ)


 スミレ色の艶やかな髪をした美少女が、ユウリの右手に手をかざしている。

 くるりと綺麗なカールを描く長い睫毛を伏せて傷の具合を確かめる彼女に、治療魔法をかけてくれたのだと気付く。

 ヨルンやユージンほど高等ではないが、丁寧な詠唱に思わず見とれてしまい、お礼を述べるのが遅れたユウリが口を開く前に、彼女は女生徒グループに向き直った。


「あなたたち」


 グループの彼女たちに加え、ユウリまでビクッとなるほど、その容姿からは想像のつかない冷たく低い声。


「治療魔法でも完全に治らない威力の攻撃魔法をわざと当てるなんて、ちょっとイジメの域を超えているんじゃない?」


 確かに、痛みは和らいだが爛れた皮膚はまだ少し引き攣れている。

 だが、攻撃魔法自体は初級の自分でも覚えているほど——使えるかは別だが——、簡単な呪文のようだった。

 治癒魔法が効かないのはむしろ、いつも通りと言っていい。

 しかしだからといって、盛大な勘違いをしている彼女の発言を正す術をユウリは持ち合わせていなかった。


「そんな、わたくし、わざとだなんて」

「そうですわ、ちょっとした事故……」

「そんなに、強力に打った覚えもないですし」

「彼女が弱すぎるんではなくって」


 口々に言い訳を重ね、誠意のこもった謝罪の気配すらない女生徒たちに侮蔑の一瞥を投げ、美少女はもう一度詠唱を始める。


「あの、もう大丈夫ですから」

「でも、まだ腫れてるわ」


 何故か今にも泣きそうな顔で返されて、ユウリは罪悪感に苛まれる。

 多分彼女の魔法はいつもの如く通らない。

 呆れられるのを覚悟で、医務塔に向かえば手当てしてもらえるだろう。ユウリ用の医薬品を大量に仕入れた、と半ばヤケクソ気味に自慢されたのは最近だ。

 オットーの名前を出すと、彼女はユウリの平気な方の手を取った。


「じゃあ、一緒に行きましょう」


 どう断ろうかと考える間も無く、半ば引き摺られるようにして、ユウリはその場を後にするしかなかった。


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