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異世界の魔女と四大王国 〜始まりの魔法と真実の歴史〜  作者: 祐
第十章 終わりと始まり
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10-3. 帝国の厄災

「はぁ……」

「流石に、疲れましたか」


 学園長室に着いた途端に情けなく漏らした息に、ラヴレがくすりと笑みをこぼした。

 首をぶんぶん振りながら、ユウリは頬を染める。


「違うんです……!一周回って気が抜けたというか、今回出番がないというか……」

「ああ、ヨルン君と離れているのが不安なんですね」


 ラヴレに的確に心内を言い当てられて、ユウリは赤い顔のまま押し黙った。子供っぽいと思われているだろうことは、想像できる。

 けれど、ラヴレは、普段ヨルンが外套でするように、ローブでユウリを包み込んだ。


「が、学園長……!」

「ヨルン君や、伯母のようにはいきませんが……私は、ずっと最初から貴女の味方ですよ」


 くぐもって聞こえた台詞に、途端に目の奥が熱くなる。

 彼が、ユウリを見つけなければ、彼女はたった一人で、この危険に晒されていたかもしれなかった。

 学園に入学することなく、友達や仲間や、愛する人とも出会えなかった。

 感謝の気持ちや、嬉しさや、ごちゃ混ぜの感情が溢れて、ユウリはラヴレの胸に顔を押し付ける。


「……泣かせてしまっては、ヨルン君に怒られますね」


 悪戯っぽく笑ったラヴレに、ユウリも釣られて、ふふ、と声を漏らした。

 さて、と仕切り直すように言って、ラヴレが詠唱する。

 ぶん、と羽音のような音を立てて、目の前のローテーブルの光沢に映像が映し出された。


「おおおおお」

「画像投影機ほど鮮明にとはいきませんが、状況を把握するには十分でしょう」


 そこには、四大王国を真上から見た画像が映っている。その中に、四箇所光っているのが、各教会支部だろう。

 窓の外はどんよりとしており、時折強い風が窓枠をガタガタと揺らした。

 皆はもう支部へ着いた頃だろうか。

 どうか、何事もなく、無事に帰ってきてほしい。

 画像を見つめたまま静まり返った室内で、ユウリは祈るように両手を組む。


 しかしながら、その祈りは聞き届けられなかった。


 どん、と大きな破裂音が響き渡ったのに、ラヴレとユウリは一気に緊迫して窓に駆け寄る。

 空は、相変わらず真っ黒な雲で覆われていた。


「何が……」

「学園長、あれ!」


 指差すユウリに、ラヴレは南の方角を見る。

 四大王国のある場所から、闇の色の上空に、真っ直ぐと伸びる四つの光。

 はっと顔を強張らせたラヴレがローテーブルへ目を移すと、先程まで光っていた四つの点が無くなっていた。

 それは、教会支部が消滅したことを意味している。

 理解した瞬間、四羽の伝達鳩が目の前に現れた。


「みんなが……!」


 ユウリが悲鳴のような声で呟く。

 今にも消えそうなほどの魔力しか持たない伝達鳩たちが、息も絶え絶えに示すのは、全て同じ内容だった。


 王子達は、各教会支部へ足を踏み入れた途端、身体の中から何かずるりと抜き取られる感覚がし、動けなくなった。

 それは、ドラゴン召喚で使用された、ユウリの魔力を吸って発動する陣と似て非なるものだった。

 一定以上の魔力を持つ者が射程圏内に入っただけで、魔力を根こそぎ奪って発動するように改良されていた。

 魔力がゼロになれば、欠乏状態となり、魔素が魔力へと回復するまで動けない。

 完全に、罠だったのだ。


 がん、とラヴレがローテーブルに拳を叩きつける。

 敵の手中に、生徒達をみすみす出向かせてしまった苛立ちに、言葉が出ない。


「とにかく、外へ……!」


 ユウリがラヴレの腰に抱きつくようにして転移魔法を発動すると、瞬時に、南が見渡せるケーブルカー側の広場に移動していた。

 ばたばたと大粒の雨に打たれたラヴレの頭が、急激に冷えていく。

 一定以上の魔力を持つ者に反応する魔法陣。


 ——ならば、何故、調査を行なったはずの()は、無事に済んだのか


「学園長!」


 ユウリが叫びながら、空を仰ぐ。

 大陸の空全体を、赤黒い魔力が稲妻のように駆け巡っていた。

 四つの光の柱に囲まれた中心、丁度四大王国中央庭園の真上あたりに、墨で塗られたような闇が広がっている。

 その闇に、ポツリポツリと金の点が生まれていく。


「あれは……もしや、帝国の」


 その形状が矢じりのようだと認識した途端、ラヴレは蒼白になる。

 祖先の書き残したものに、何度も出てきた古代兵器。

 言葉少なに見つめるラヴレの顔に、僅かな絶望が混じった気がして、ユウリはぐ、と機械時計を握り直した。


「行ってください」

「貴女を置いては……」

「学園長」


 指先が真っ白になるほどの力で機械時計を握りしめているユウリは、その不安をおくびにも出さず、ラヴレに促した。


「私は、《始まりの魔女》です。《始まりの魔法》も持っています。レヴィさんやヴァネッサさん、フォンさんやナディアもいます」

「ユウリさん……」

「何かできることがあるなら、学園長は行ってください。ここは私が食い止めます……って、なんか、ヒーローっぽくないですか、私」


 態とらしく戯けて、ユウリは笑う。ラヴレは眉尻を下げたまま、ぎゅっと彼女を抱きしめた。


「くれぐれも、無茶はせずに」

「はい」

「学園の方は、残った四人に任せませす。気休めかもしれませんが、人払いの魔法をかけていきますので、ユウリさんは集中してください」


 素早く詠唱したラヴレに頷いてみせ、その背中を見送る。

 ユウリはもう一度、確かめるように機械時計を握って、光の矢じりを睨みつけた。


(重……っ)


 召喚魔法を押し返すように祈るが、ドラゴンを倒した時の比ではなかった。魔力の出力を上げながら、慎重に、けれど確実に、金を闇に溶けさせる。

 その一方で、四人の王子達を思い浮かべたユウリの身体から魔力の渦が伸びていき、つむじ風のように吹き抜けていった。

 陣が発動した後であれば、それ以上魔力を吸い取られることはないだろう。

 送り届けた魔力で、彼らが魔法陣を破壊できれば、この悪夢のような光景も終わる。

 膨大な魔力が轟々と渦巻く中心で、ユウリは祈り続けた。


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