誤魔化しの歌
「ら、ら、ら」
「ラ、ラ、ラ」
声の調子を整えながら。
「RA RA RA」
私たち大人は、それぞれが求めてやまない「何か」への気持ちをどうにか誤魔化そうとする。
誤魔化して、蹴散らして、まるで歌うように上書きをする。
心を踊らせるためのリズム、思考を必要としない歌詞、自分にだけ響く声。
求めてやまない「何か」が心に深く穴を開けてゆく、間に合わない、間に合わない、歌うのよ、その空洞を埋めるために。
「うわぁぁぁぁぁぁ、ラムネー」
ふと視線を下げれば、幼い子もまた、必死になって彼なりの「何か」を求めていた。
誤魔化さない、誤魔化す必要がない、彼が欲しいのは、色とりどりのパステルカラーでこの世に生み出されたまるいラムネ。
親指と人差し指でつまむことができる、小さな「何か」。
それに対して、私たち大人が求めている「何か」にはきっと、形も、色も、感触もない。
この得体の知れない「何か」を、簡単には得ることができない、もはや一生得ることができない「何か」を下手くそな歌で埋めるのだ。
「ら、ら、ら」
違う。
「ラ、ラ、ラ」
これじゃない。
「RA RA RA」
まだ、マシか。
RA RA RA
RA RA RA
私たちは今日も、眠気が訪れるまで歌い続ける。
泣きわめいて眠りに落ちる幼い子。
歌い続けて倒れるように眠る大人たち。




