ピンクのグラデーション
「6月に、昔校庭だった場所でBBQしたり、夜は蛍を見に行ったり、広い座敷で雑魚寝したり……」
まるで大学生活を彷彿とさせるような、夢のようなお誘いだと思った。
その日私がそこに存在することが、本当に可能なのだろうか?
提案された翌日、無意識の内に何度も頭の中でシミュレーションを繰り返す。
怪獣二匹を両手で引き連れて、全部自分一人の力で知人の行動に合わさせるのだ。
できるだろうか?
何でもない事件は突然起きた。
コンビニで何も買えなかったのだ。
「魔の時期」は二人目のはずなのに、一緒にいたらコンビニで買い物もできない、その事実に愕然としてしまった。
そして、なかなかにどきどきした。
この怪獣とあと11ヶ月一心同体生活なのかと思うと、動悸がした。
校庭BBQ、夜に蛍、広い座敷で雑魚寝、そんな幻のような羅列は、諦めるのが賢明な判断のようだ。
それでも「諦める」のは、今回に限ったことではない。
今までいろんなことを諦めたことによってできた穴が、しゃがむ私の周りに月のクレーターみたいに存在する。
私はその穴をマニュキュアで埋めてゆく。
塗る作業を楽しもう。
目で見て楽しいを味わおう。
きっと動悸がしたのは、6月の集まりに参加したかったからなのだろう。
大学時代のキャンプを思い返していたからなのだろう。
白いワンピースを着てしゃがむ私の周りに、ピンクのグラデーションのマニュキュア畑が広がっていた。
「諦める」ことによって得られた美しさなんだ。




