カラフルなボールプール
一年一年生きてきて、その度に好きな人、物、事が増えてゆく。
ただ現在目に映る、夢中になっている人、物、事に、自分の時間を費やしていると、あっという間に朝と夜が繰り返される。
それでも忘れるわけがない。
好きじゃなくなったわけじゃない。
一組しかない両手の平で包むことができなくなっただけで、一度好きになったらきっと永遠だ。
ここは、好きなものたちがカラフルな球体になってできたボールプール。
私はただ仰向けに、好きなものに埋もれてゆくだけだ。
『本日○時、○○(大きな公園)です!』
SNSの画面を前に、固まった。
覚えているだろうか、このエッセイにも書いたことのある、ダルマのバンド(言い方)のことを。(本作『私の貴重な脳のスペース』より)
そのバンドのボーカルが、関西に来る、と。
な、なんで?????!!!!!
何のイベント?????!!!!!
ちょ、ここ、行ったことないけど、行こうと思えば行けるとこちゃう???!!!
でも公園のサイトに何も書いてへん…
SNSを見てると三時間前からすでに場所取りを始めている人がいるらしい。
無理だ。
子連れでよく分からん混み混み予想のイベントに参加するにはリスクが高すぎる。
「諦める」、いつも通り、「諦める」。
それが、私がこの数年で得た、最強のスキル。
の、はずだった。
広がる芝生、群がる人々、組まれたステージ上のスタンドマイク。
夢みたいだ。
ここにあの人が、本当に現れるのか……。
情報によると、今日で結成十二年。
私が関西方面から群馬県のライブハウスまで一人で飛んで行っちゃうぐらいに心を奪われてから、それぐらい経つのか!
すごいなぁ……。
なんとかうどんとたこ焼きを怪獣たちに食べさせると、開始まであと10分。
横柵から見れる位置をゲットしたので、前の人の頭の高さを気にすることもない。
冬にしては動きすぎると汗ばむくらいの気候の中、青空が広がる。
そしてついに、その時。
あの人は、現れた。
黒を基調とした服のメンバーの中、一人だけ白くて長い上着に身を包んでいた。
な、なんて、映える……。(すでに動揺)
それにしても実は近年の曲には詳しくないのだが……、一体何を歌ってくれるのだろう。
そんな中、流れ始めた曲、それが。
全く予想していなかった「デビュー曲」だった。
りあるに「おおお」と私の口からは声が漏れ、当時ライブに向かうため埼玉から群馬までの電車の中で繰り返し聴き続けた記憶がなぜか強く蘇る。
学生が乗り降りする、日差しの暖かい電車だった。
今、私はベビーカーの隣で青いタイトスカートを履いて、口元を手で覆っている。
夢か幻か、やっぱり私はあなたの歌声が大好きだ。
カラフルなボールプールの中、私は少し膝を曲げて横になりながら両手の平の中にあるボールを布で磨く。
今自分が夢中になっているものが輝きますように、もっともっと自分の手によって輝きますように。
そんな私に寄り添うようにピタッとくっついてくるボールの数々。
これらは、私が今まで好きになった人、物、事。
そのひとつがどこからか不意に弾け飛んで来て、思わずキャッチした時に思い出すの。
「あぁ、今でもやっぱり好きだ」
年を重ねる度、益々ボールに埋もれてゆき、いつか。
私が見えなくなってしまうほどに、好きなものにたくさん出会えた人生であればいいな。




