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ラブレター

 通常業務で不本意に寝てしまい、気づけば夜中の1時。

 飲み会から帰宅した家の人が立てる物音に起こされた私は、すでに4時間寝てしまっている。

 目が冴えて、「今日」という日の消化不良を感じた。


 真夜中、切ってあった林檎を食べながら、日中ずっと考えていたことをより一層考える。

 私は、男女問わず強く憧れている人を前にすると、まともな言葉を失う。

 変なことを伝えてしまったと思った。

 その時はふわふわして思考回路が働かず、しばらくして「違う、違ったなぁ」と、自分のばかさ加減に呆れる。

 傷つけるようなことを言ってしまっていないだろうか、それだけが心配だった。


 私が伝えたかったことは「とにかくあなたが作り出すものが好きなんです!!!!!」ということ。

 その後に「だから……」と、まともな思考回路で言葉を続けられれば、今日一日引きずることはなかったのだろうか。


 でもやっぱり「普通の思考回路」でいられることを諦めるざるを得ない。

 私の人生、強く憧れている人を前にして、まともな言葉を失わなかったことはないのだから。




 学生の頃、同じ部活にとてつもなく憧れている女の先輩がいた。

 彼女はふんわりさせた髪に短めのスカートと長めのカーディガンがよく似合い、小柄で細身にかかわらず動作がとても色っぽかった。

 私は彼女の虜だった。


 ただ、私は強く憧れている人を前にすると、まともな言葉を失う。

 話すことなんてできず、周りに同化して、大人しくその場にいることしかできなかった。


 彼女の手の上げ方など、私の頭にいろんな記憶が散りばめられている中で、「私との」思い出がひとつある。

 それは合宿でスーパー銭湯に行った時の話。

 湯上りの私は鏡の前に備え付けられているドライヤーの前で、彼女の隣に座ることになった。

「10円ここに入れるんやって」

 彼女はそんなやり取りなんて、もう覚えてないだろう。

 その後に、思いの外早く温風が止まってしまい、笑い合った記憶が本当のものかどうかは、定かではない。


 年月が過ぎ去ると、不思議なことが起こったりもする。

 20代、今はもう廃れ気味のSNSで彼女と繋がった時期があった。

 学生の頃はまともに会話をしたこともなかった私は、彼女の文章から初めて彼女の心の内側に近づくことができた。


 30代、忘年会シーズン。

 中学生の頃からの知人aがいきなり動画を送りつけてきた。

 何ともなしに見てみると、そこにはあの彼女の姿があった。

「佳代ちゃん、大丈夫やでな、勝手にどうにかなるから」

 みたいな感じのことを、ふふふと笑いながら彼女は動画越しに私に語りかけていた。

 彼女と職場が同じだった知人aから、彼女を崇拝する私へのサプライズ。

 数年前に絶賛ノイローゼ気味だった私に対する、彼女からのメッセージ。

 あぁ、数年前の私に見せてあげたかった。

 この動画を見ている時点の私はもう大丈夫だったけど、数年前の、私に。


 まともな思考回路が働かない私は、スマホの画面上にやっぱり気持ち悪い言葉で感謝を並べることしかできないのであった。


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