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いつだって現実を支えているのは非現実だ

 いつだって現実を支えているのは非現実だ。


 まだ見ぬ景色を求めた旅という非現実へ、

 普段よりも豪華な食事という非現実を、

 手が届かぬ想い人という非現実に。


 そして私たちは、物語という非現実を読み、紡ぐ。




 いつもはぺったんこの靴でどんぐりが転がる地面を歩いているはずの足に、ピンヒールという非現実が生え、夜の闇に想像以上に紫色の輝きを放つ観覧車が回る地に降り立った。


 全身を包むように広がる紺色のレースを足首あたりで揺らしながら、向かうは旧友たちと過ごした団体の60周年の記念の会。


 肩で揺れるふんわりした巻き髪は、いつもなら帰宅のみの美容院カット後に仕上げてもらえた状態であり、今日は存分に活かせる。


 ホテルのエントランスに入っていく、私が参加を促し続けた後輩の姿が目に入り、嬉しくなっていつもより高い声で名前を呼んだ。




 常々、思う。


 どうして、現実だけでは事足りないのだろう。


 飛行機の音が響く青い空、

 塩麹と醤油で味付けした納豆ご飯、

 意味不明なテンションの怪獣たち。


 そんな現実がより良くなるような行動を、そして身近な現実の喜びだけに心を埋めることはできないのだろうか。


 いや、私は私なりに日常を喜び、そのために最善を尽くしているつもりだ。


 今までも、これからも、これ以上もこれ以下もできない。


 なら、何を、悩む。


 私の尊敬している人が言っていた、私たちの立場を苦しめている感情、それは。


 罪悪感だ。


 そして毎日顔を合わせる、私より経験が長くて同じ立場の知人の何気ない一言。


「美味しい焼き鳥屋、教えようか?」


 え、そんなところ、私が行ってもいいの?


 もう完全に感覚が麻痺していて、いろんな免疫がなくなって、自分で思ってしまう。


 外の世界を知らない、どこかの娘さんかよ、って。




 みんなが謳歌している(ように見えた)時に私は、穏やかさと孤独を織り交ぜたような空間で目の前の使命に一喜一憂してきた。


 あっという間なんて、言わせない。


 今日もまた一日が始まる。


 誰も彼もが、何かしらと戦っている。


 非現実に支えられた現実を、私たちは生きている。

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